第48話
こうなってしまっては一刻の猶予もない。しばらく話し合った結果、マリアチさんは皇室に戻って関係筋からの情報収集に、ナナは屋敷に戻って二人の出方を探りに、それぞれ向かう事となった。
「さあ、時間がない。僕たちは急いで資料作成だっ」
「はいっ」
かつての皇室会議の時と同じく、私たちは忙しく動き回った。私たちに味方をしてくれている貴族の人たちに協力を求めて回ったり、相手の情報集めから資料作成まで。…とても大変に感じられたけれど、フォルツァと一緒に過ごすこの時間は、同時にとてもやりがいを感じられた。
「レブちゃーん!この試算書、数値が飛んでるわよーー!」
「だーーかーーらーー!!」
「男爵、二人はどういった手で崩しにかかってくると思われますか?」
「そうだな…公爵は金銭にうるさい人だから、やっぱり財政関係が臭いか…」
「フォルツァ!!こんなところで寝ないの!!」
「…あ、ね、寝てないって!寝てないってば!」
「こことここは…はむはむ…一緒に書いた方が…はむはむ…いいかもね…はむっ」
「た、食べながら書かなくても…」
「ここを見てくれ。公爵の告発文書、情報のソースは全部奴に協力してる貴族連中じゃねえか」
「…そこをつけば、切り返せる…のか?」
「あーーー!!計算まちがえちゃったーーー!!!!」
「ばーーか。ミル、お前もシンシアと一緒にフォルツァに勉強教えてもらえ」
「シンシア!僕を殴ってくれ!!眠気を吹き飛ばす!!」
「え?ええええええ!!??」
「クスクス。これはこれは、妃さまを通り越してすっかり奥様でございますね」
私とフォルツァのいつものやり取りを見ていたマリアチさんが、楽しそうに笑いながらそうつぶやいた。
「わ、私はそんなつもりじゃ…」
まじまじとそう言われてしまうと、なんだか恥ずかしくなる。
「それでマリアチさん。皇室の方はどうでした?」
私の横から、フォルツァが疑問を投げる。
「思った通り、皇室貴族は今のところすっかり公爵派の人間で固まってしまっていますね。これには皇帝陛下も手を焼かれておられる様子でした」
さすが、帝國のナンバー2の名は伊達じゃない。
「それで、資料の準備の方は?」
マリアチさんに、現状を正確に伝えるフォルツァ。
「…正直、かなりぎりぎりだね…本当なら命じられた準備資料に加えて、向こうが攻めてくるであろう領域についての情報をまとめた資料まで作りたいところではあるんだけど…」
「んなこと、現実的に無理だな。そこらへんはもう、その場で対応するほかないだろうな」
…そ、そんな裁判みたいな事をやらなければならないのか…
「分かりました。私も可能な限りぎりぎりまで探りを入れますので、なにかありましたらまた連絡を」
そう言い残し、足早に去っていくマリアチさん。
「…さあ、続きだ続きだ」
私は改めて体に鞭を打ち、作業に取り掛かった。
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