「こ、告発文書とは一体…！？」

　事態を飲み込めないのは、フォルツァも私も同じだ。それどころかマリアチさんまでも、冷静さを欠いている様子だった。

「…ナナ様のリーク通りですが、まさかこんなに早く動いてくるとは…」

　二人の動きは、マリアチさんの想像以上だったのだろう。部下の人が急ぎ持ってきた書類をフォルツァが受け取り、すぐさま内容に目を通す。

「こ、こちらが告発文書になります…！」

「…『マリアチ皇室長がフォルツァ皇太子の妃の候補として推挙しているシンシアには、皇室の財産を横領し、反帝国派組織と繋がっている疑いあり。我々はここにそれを告発し、速やかな真相究明及び事態の解決を求めるものなり』…な、なんだこれは…！？」

　わ、私はそんな事絶対にしていない…つまりあの二人は…

「…こんなでっちあげまでしてくるとは、全く救えないな…あいつら」

「これで帝国のナンバー2だって言うんですから、ねぇ…」

　レブルさんとミルさんの言う通り、でっちあげてきたのだ。…無実の罪を私に着せて、追いおとす腹積もりということね…けれど、二人はどうしてこんなにも早く…

　私のその疑問を感じ取ったのか、マリアチさんが答える。

「公爵に賛同する者たちが、あらゆる方面で協力をしているのでしょう。普通はこんなもの、王国は受理しませんから」

　あの時公爵様と一緒にいた、私たちに反対する人たちだ…

「だとしたらまずいな…向こうは勝つ算段もなしに、こんな事はしてこないだろう」

「ええ。すぐに反撃の手立てを考えなければなりません」

　すでに敵の思惑をすべて理解している様子の二人に、私はおいて行かれてしまう。

「あ、あの…二人は一体何を…？」

　そんな私の様子を察してくれたのか、二人が分かりやすく状況の説明をしてくれる。

「公爵様とマリアーナ様は、数日後にでも調査団を率いてここに乗り込んでくることでしょう。その調査団には、彼らの味方をする皇室の人間も含まれているはず」

「その時に僕らが無実を証明できなければ、この告発文書は真実味を帯びた状態で王国に再申請される。そうなったら…」

　…そ、そうなったら…まさか…

「…婚約破棄どころか、反逆罪に問われるだろうな…」

　は、反逆罪…私が…？何もしていないのに…？

「向こうは徹底的にやるつもりのようだ。…どうやらあの会議の日の事が、相当悔しかったんだろうね」

「そうなると、本当に時間がねえ。確か王国調査団は、予告なしに乗り込んでくる権限を持ってるらしいじゃねえか。数日中となると、書類の事前準備すら間に合うかどうか怪しいぞ？」

　あまりの理不尽な攻撃に硬直してしまっている私だけれど、なんとか状況について行くことに努める。

「しょ、書類の事前準備って…？」

　私の疑問を聞き、告発文書の一点を指で示すフォルツァ。

「ここを見て。ここに書かれている準備書類を、向こうが乗り込んでくる前に完璧に用意しなければいけないんだ。…それができなかった時点で、弁解の意思なしとみなされてしまうんだ…」

　…彼らの奇襲攻撃を受け、私たちは完全に追い詰められていた。

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