第46話

「ナナ…どうしてあなたが…」


 力なくたたずむナナに、まず私が口を開いた。


「私はただ…お姉様に…謝りたくて…」


 …次の瞬間には、私はナナのすぐ近くまで近づいて感情を爆発させた。


「ふざけないでよっ!今更何のつもり!あなたたちが向こうで私にどれだけの苦痛を与えたか、忘れたとは言わせないわよ!」


「…」


 ナナは俯いたままで、何も反論などはしない。


「シンシア、ひとまず今は彼女の言葉を聞こう!」


 …そのまま私を放っておいたら、手を出してしまいそうな雰囲気を感じ取ったのか、フォルツァが私の肩をつかんで自制を促した。


「…」


「…私の方からお話させていただきます」


 沈黙を貫くナナに代わり、マリアチさんが説明を始める。


「…実は私は以前より、問題の根源はマリアーナ様にあるのではないかと考えておりました。そこで私はマリアーナ様とナナ様のお二人に近づき、自分なりに情報を集めておりました。…そしてあの日、ナナ様が私にすべてを告白されたあの瞬間、私の疑いは確信へと変わったのです」


「決してナナ様を擁護するつもりで申し上げているわけではありませんが、あの環境の中では、ナナ様はマリアーナ様に逆らうことなどできなかった事でありましょう。少なくともその点に関しては、大いに同情の余地があるかと考えます」


 …信じられない事を次々と話すマリアチさん。…ナナが、マリアーナの操り人形であった、と…


「し、しかし…」


 フォルツァの懸念を察したであろうマリアチさんは、それに対してこたえる。


「ですがもちろん、ナナ様がシンシア様に行った数々の行為は到底許されるものではないでしょう。そこで…」


 ここにいる皆が、レブルさんの続きの言葉に注目する。


「お許しになられるかどうかは、ナナ様のご覚悟のほどを見極めになられたうえで、ご判断されてはいかがかと」


「…覚悟?」


 …マリアチさんは、いったい何を言っているのか…私が理解に苦しんでいたその時、それまで沈黙していたナナがようやく口を開いた。


「…マリアチ皇室長のおっしゃる通り、私がお姉様にしてしまった事は、許される事じゃない…ですけれど…」


「…本当に私の勝手ですけれど、今こうしてお母様に立ち向かて戦っているお姉様の姿を見て、私も…お母様の言いなりのままではだめだと、思い知らされましたの…」


「…私の言葉に信用なんてないのは承知の上でございますけれど、それでもあえて申し上げます」


「…私も、お母様と戦います…!…たとえ刺し違えてでも、お母様と公爵様と戦います…!」


「…せっかくあの時、マリアチ皇室長にそう言っていただいたのですから…!」


「…ナナ」


 彼女のその瞳には、確かに覚悟の意思が宿っていた。…彼女の言いたい事は、とりあえずは分かったつもり…私はひとまず、彼女に正直な思いを伝える。


「…私は、あなた達を許せない…あそこでの毎日は、本当につらいものだったから…だけど」


 私はナナのその目を見て、はっきり伝える。


「…あの人と戦うことを決めてくれたあなたの勇気と覚悟に…敬意を表します」


「お、お姉様…」


 …そう告げた途端、周りの私たちに対する視線がどこか暖かくなった気がした。…せっかくならば、あなたたちのおかげで極められた私の料理スキルを、とことんまでお見舞いしてやろうかと思った、その時だった。


「皆さま!!大変です!!」


 皇室長の部下と思われる人が、こちらに向かって走ってくる。そのただならぬ様相に、反射的にフォルツァが対応する。


「どうしました!?なにがありました!?」


 次の瞬間、彼は私たちが想像だにしていなかったことを叫んだ。


「公爵様とマリアーナ様が連名で、シンシア様の告発文書を王国に提出しました!!!!」

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