第45話

 フォルツァとともに机に向かい、業務を行う私たち。あの日以来、私たちは二人ともギアが一段とかかったような状態だ。


「シンシア」


「はい、二次資料です」


「ああ、ありがとう」


 普段通りのやり取りではあるものの、それを見たミルさんがレブルさんにぼそっとつぶやく。


「え?な、なんで今ので通じたの?私全然わからなかったんだけど…」


 問いかけられたレブルさんも、さぁ?、と言った表情を浮かべて彼女に返事をする。そんな二人に構わず、私たちは業務を続ける。


「フォルツァ」


「はい、3号文書ね」


「ありがとう」


「??」


「??」


 …そんなやり取りが何度も繰り返されていた時、突然屋敷の使用人が駆け足で私たちのもとを訪れる。


「フォルツァ様、シンシア様、お客様がお見えでございます」


 その知らせを聞き、私はフォルツァと顔を見合わせる。…今日、誰かが訪れるという予定はなかったはずだけれど…


「どちら様?」


 フォルツァのその問いに、使用人は私たちが予想だにしていなかった人物の名を上げたのだった。




「マリアチさん!これはまたどうして…?」


 なんと、客人の正体はマリアチさんであった。…彼が突然訪ねてくるなんて、皇室で何かトラブルでもあったんだろうか…?


「お二人とも、お変わりないようで何よりです」


 穏やかな表情でそう告げるマリアチさん。私は持っていた懸念を、彼に投げかける。


「マリアチさん、皇室の方で何かあったのですか…?」


 私のその問いを、彼はゆっくりと首を横に振って否定する。


「…突然の訪問になってしまったのは理由がございまして…実は、公爵様とマリアーナ様になにやら不穏な動きがあると、ある人物からリークがあったのです」


 …やっぱりあの二人、まだまだ諦めてはいないようだ。


「それで、ある人物というのは?」


 私も、そこが気になった。彼らに近しい人物で、かつ私たちの味方をしてくれる人とは、いったい誰なのか…


「…実は、一緒に来ております」


 マリアチさんが、後ろの方に何やら合図を送る。…どうやらその人物は、門の陰に隠れているようだ。マリアチさんの合図を確認して、その人物の姿が少しずつ目で確認できる。


「…!?」


 …少しずつ歩み寄ってくるその人物の姿は、私が決して忘れないであろうそれであった。…なんで?なんで彼女が…?

 完全に姿が見えたところで、マリアチさんがその人物の紹介をする。


「…マリアーナ様がご令嬢、ナナ様です」


「…」


 …皆一様に、硬直してしまう。当のナナもまた、俯いてしまっていてその表情は見えない。…どれだけの時間沈黙が続いたのかは分からないけれど、最初に口を開いたのはナナだった。


「…お姉様、お久しぶり、ですね…」


 …顔を上げたその表情は、私が屋敷にいた時とは似ても似つかないほどに、やつれてしまっていた。

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