第34話
「あ、あれが保安部の本部…」
遠目に見て最初に驚かされたのは、その人数の多さだ。さすがは王国の秩序を守る使命を帯びているだけあって、この本部だけでもかなりの人数がいるように見える。
「身にまとっている制服も、なかなかカッコいいでしょ?王国国民からかなりの人気なんだ」
「そ、そうなんだ…」
ずっと屋敷に閉じ込められていた私は、それさえ知らなかった。そして建物の周囲には、目を輝かせて保安部員を見つめる子どもたちの姿があった。
「…子どもたちにも、人気の仕事なんですね」
「ああ、もちろん!」
嬉しそうに、そういうフォルツァ。彼からしても、保安部は皇室の誇りの一つなのだろう。
「今の時間ならいるはずだ。行こう」
近くの保安部員の人に馬をお願いし、本部へ足を踏み入れる。ここの人たちにはフォルツァの顔と立場の情報は共有されているようで、難なく本部に立ち入る事ができた。
「保安部部長室は…最上階か」
妙に見にくくて不親切な建物案内図に目を通し、カサルさんのいる部屋を確認する。カサルさんに会う事どころか、見ることも初めてな私は、体がおかしくなりそうなほど緊張している。フォルツァの手を握り、なんとか勇気を振り絞る。
…何も考えずに歩いていたためか、ほとんど時間を体感することなく目的の部屋の前へと到着する。過呼吸になりそうな私の姿を見て、フォルツァが優しく言葉をかけてくれる。
「…大丈夫だよ、落ち着いて、シンシア。君は一人じゃないんだ。僕はずっと君と一緒にいるし、ここにはいないレブルも、男爵も、僕たちを応援してくれてる。僕たちに、力をくれている」
そう言いながら、暖かい手で私の手を包むフォルツァ。私の息遣いが少しずつ、落ち着きを取り戻していく。
「…ありがとう、フォルツァ。もう大丈夫よ」
フォルツァは頷いて私に返事をし、部長室に歩みを進める。扉の前で見張りをしている見張り員の人に事情を話し、最後の準備をする。
「カサル部長は、今こちらにいらっしゃいます。お二人のご到着をご説明しに参りますので、少々お待ち願います」
見張り員の人は私たちにそう告げ、ノックをし、返事を確認して室内へと入っていく。その時中から聞こえた返事の声の主が、カサルさんその人なのだろうか。私は落ち着いて深呼吸を繰り返し、時間が訪れるのを待った。
そして少しして、見張り員の人が中から戻ってくる。
「大変お待たせいたしました。中の方へどうぞ」
彼はそう言い、非常に丁寧な動作で部屋の中へと手を差し伸ばす。私は一瞬フォルツァと顔を見合わせたのち、部屋の中へと足を踏み入れた。
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