第33話

「これまで大して皇室と関係などなかった私が、突然皇室に召喚される理由など、私には一つしか心当たりがない。マリアチはきっと私たちの協力関係を裂き、自身の目論見を達成することが目的なのだろう。本当にすまないが、私自身、今回ばかりは二人の力になることができないようだ。しかし代わりというわけではないが、私の知り合いの者の中に、マリアチについてよく知る者がいる。その者に当たれば、なにか情報を得られるかもしれない。君たちの思いが届くことを、私は心より願っている。マリアチは優秀な男だが、最後まで決してあきらめるな! ーブーシャよりー」


「…」


「…」


 男爵の思いに、私たちは言葉が出なくなる。彼はこうなることを予想し、使用人の人に手紙を託していたのだ。


「…男爵のおかげで、少し望みが見えてきたね」

 

 やられた、という風な表情で、少し笑っているフォルツァ。多分、私も全く同じ表情を浮かべていることだろう。


「それで、その人物は…」


 手紙の下側に、その人物に関しての記載があった。


「名前は…カサル保安部部長…」


 私には全く聞きなれない名前だけれど、フォルツァは知っている様子だった。


「カサル…確か、マリアチの警護を務めてた人だ…」


「マリアチさんの…警護…」


 それなら確かに、マリアチさんとは親密な仲であろう。…会いに行くのはこちらの手の内をさらす、危険な行為かもしれないけど、そんなことは男爵も想定しているはず。ならば私たちは男爵の手紙を信じ、この人物の元へ向かうべきだ。


「行きましょう、フォルツァ」


 私の考えがきっと通じたのだろう。フォルツァも力強くうなずき、私に同意してくれた。私たちは再び馬にまたがり、次なる目的地を目指す。目指すは、皇室保安部の本部だ。


「…ねえフォルツァ、保安部ってどんな部署なの?」


 私は念のため、フォルツァに確認をする。


「シンシアの想像通りの部だと思うよ。保安部は皇室関係者の警護から、帝國の犯罪捜査なんかも担ってる。子供たちの言葉で言うところの、正義の味方かな」


 やはりそうか。保安の文字をつかさどるのは伊達ではない。


「そのカサルさんって人、フォルツァは話したことはあるの?」


「いやそれが、直接はないんだ。社交界や食事会なんかで、姿を見たことならあるんだけど…」


 …つまり、私たちは二人ともカサルさんに初対面の状態で話し合いに向かうわけだ…やっぱりどうしても、不安感が勝ってしまう…


「大丈夫だよ、シンシア!約束したでしょ?君を幸せにするって!もう絶対に離さないって!」


 …私が不安な表情を浮かべていると、フォルツァはすぐにそれを見抜いてしまう。私はなんだかそれが恥ずかしくもあり、うれしくもあった。


「…はい!私も離しませんから!」


 目的地の保安部本部は、もうすぐだ。

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