第32話

 馬にまたがり、出発の準備を整える私たち。


「レブル、屋敷の事は頼むよ。私たちは急ぎ男爵家を目指す」


 フォルツァが極めて冷静に、レブルさんに指示を送る。


「ああ、承知した。二人の方こそ、急ぎすぎて転倒なんてするんじゃねえぞ」


 少し笑みを浮かべながら、軽口をたたくレブルさん。私はその言葉のおかげで少し緊張がとけ、リラックスする。


「じゃあ、行こう」


「はいっ!」


 全速力で馬を駆け、一目散に目的地を目指す。天候にも恵まれ、これなら比較的短い時間で到着できそうだ。


「…男爵は、私たちの力になってくれるでしょうか?」


 馬で隣を走るフォルツァに、疑問を投げる。


「うーん…前の時もそうだったけど、今回も正直彼には何もメリットがない。僕たちの仲を引き裂きたい皇室に反発してまで、僕たちと一緒に戦ってくれるかどうか…」


「…」


 私も、同じようなことを考えていた。これまでいろいろとお世話になっておいておきながら、私たちとともに心中してくれないかと、頼みに行くのも同然なのだから…


「だけど、男爵は君の言葉に心動かされた様子だった。君が直接話をすれば、もしかしたら…」


 今の私たちには、ただただ男爵を信じることしかできない。どうか、私たちに力を…

 それれからしばらく馬を走らせ、男爵家に到着する。…しかし到着早々、使用人の人からとんでもない事が知らされる。


「男爵が…皇室に呼び出された…!?」


 何事にも冷静なフォルツァが、少しだけ感情的に言葉を発した。


「は、はい…いきなり皇室召喚状が送り付けられてきて…それで今は皇室に…」


 使用人の人も、何が起こっているのか理解できていない様子だ。


「…しまった…完全にやられた…」


 私もフォルツァも、驚きを隠せない。


「…マリアチ、ここまでやるか…」


 …完全に、先回りされてしまった。私たちが男爵を頼ることなんて、彼には想定済みだったという事だ…。


「…どうする…どうする…」


 珍しく、少しだけ焦っている表情のフォルツァ。…私の方も何のアイディアも出せず、重い沈黙が私たちを包む。

 しかしそんな沈黙を、屋敷の使用人の人が破った。


「そ、それで男爵から、こちらをお預かりいたしております。近日中にお二人の姿が見えたなら、必ず渡すように、と」


 その手には、手紙が握られていた。私たちは一瞬視線を合わせた後、私がその手紙を受け取る。一体何が起きているのか理解できないまま、私は流れのままに手紙を開封していく。後ろからはフォルツァが、その様子を見守る。


「…フォルツァ様、シンシア様へ…」

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