第30話

「ゲホッゲホッ…」


「かなり熱があるね…」


 私は珍しく、風邪をひいてしまったらしい…体の強さにだけは妙に自身があったんだけれど、自意識過剰だったんだろうか…


「…ごめんね、シンシア。毎日毎日無理をさせてしまったせいだね…」


「そ、そんなことはっゲホゲホッ…」


 …なんだかみっともない気持ちでいっぱいになる。お屋敷の仕事の量も勉強の量も、フォルツァの制止を破って増やしたのは自分自身だというのに…


「シンシアを、頑張らせすぎちゃったね…屋敷の事は僕たちに任せて、ゆっくり体を休めるんだ」


「で、ですが…」


 私たちの関係を妨害しようとしている連中は、明日にでも何かを仕掛けてくるかもしれない。…私には、時間がないというのに…


「…ごめんなさい、フォルツァ…」


 そう言った私に少し近づき、頬に手をやるフォルツァ。私の顔は風邪のせいで熱を帯びているせいか、フォルツァの手がひんやりと感じられ、それがとても心地よかった。

 彼は笑みを浮かべながら、優しく言葉をかけてくれる。


「君が責任を感じることなんて何もないよ。気づけなかった僕の責任だ。愛しい人の不調なんて、本当なら僕が一番に気づかなくちゃいけない事なのに…」


「フォルツァ…」


 私たちがしばらくの間見つめ合っていた時、不意に外から声がかけられる。


「フォルツァ、いるか?」


 レブルさんの声だ。…会議か何かの時間になったんだろうか…?

 途端、返事をしようとした私の口を、フォルツァが自身の口でふさぐ。


「んんっ!」


 い、いくらなんでもこの状況を見られるのは…恥ずかしすぎるというか…!!!


「フォルツァ?…いないのか…」


 …足音が少しずつ遠くなっていくのが分かる。…ここは私の部屋だから、レブルさんはきっと私が風邪で眠っていると考えたのだろう。

 …しばらくその時間が続いて、私の唇はようやく解放される。


「っも、もう…あ、危ないったら…風邪、うつっちゃうかもしれないし…」


 …ただでさえ体が熱いのに、おかげで一段と熱くなってしまう。


「大丈夫大丈夫!むしろそれなら全然ありなくらいかな♪」


 いたずらっぽく、微笑むフォルツァ。…公の場で見せる凛々しい彼の姿はどこへやら、私の前でだけは、こういう姿を見せてくれる。


「そんなこと言って、本当にうつっても…むぅっ!!」


 再び彼は私の唇をふさぎ、驚いた私の顔に満足したのか、そのまま去って行ってしまう。

 …おかげで体が火照ってしまい、全く満足に眠れなかった…


 そして数日後…


「あっ頭痛ええええええええええ!!!!!!!!!」


「もうっ。キスは当分お預けですからねっ」


 案の定フォルツァに風邪がうつってしまい、屋敷中が大混乱になってしまったのは、また別のお話…

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