第29話

「ね、ねぇシンシア、今日の夜御飯は」


「もう!さっきも言ったじゃないですか!あともう少しですから、おとなしく待っててください!」


「は、はぁい…」


 フォルツァが私にそう言葉を投げる。それに対し私が言葉を投げ返す。そしてそこにいるフォルツァの友人の方たちが目を点にする。


「じ、次期皇帝にあんな風に言えるなんて…!」


「ああ…話に聞いた通り、並みの人間じゃない…!」


 そして後ろでレブルさんが笑う。そこまでがこの流れのセットだ。


「さぁ、できましたよ!冷めないうちに召し上がってくださいね」


 3人が口を合わせて、頂きますを唱える。…無邪気に食事をほおばる姿は、まるで少年のよう。この3人ともが帝国の中枢を担う人たちだとは、とても思えないほどに。もちろん良い意味で。


「お好みで、こちらのソースもお使いになってくださいね」


「おおお!!!」


 雄叫びを上げる3人の声を聞くと、私もうれしくなる。自分の作った料理が、こんなにも喜んでもらえるとは。それも相手は帝国の中枢を担う人たちだ。…私も少しは、自分に自信を持ってもいいのかな…

 そんな時、後ろから私たちの様子を見ていたレブルさんと目が合う。彼は私に手招きをし、こちらに来るよう合図を送ってきた。私はそれに導かれるままに、レブルさんの元へと向かう。


「すさまじい人気じゃないか。皇帝の妃より、帝國料理人の方が向いてるじゃないか?」


 彼は笑いながら、からかいの言葉を投げてくる。


「も、もうっ!からかわないでくださいってばっ!」


「クスクス。悪い悪い」


 そしてレブルさんの表情が一転し、腕を組んで真剣な表情となる。これから話すことが、本題なのだろう。


「さて。とりあえず報告しておくと、二人の婚約の話はだいぶ固まってきてるようだ」


「ほ、ほんとですか!」


 自分でも、嬉しさのあまり顔が赤くなるのが分かる。


「ああ。どうやら宣言通り、ブーシャ男爵が貴族会を中心に働きかけてくれているらしい」


「男爵が…」


 …男爵のお礼には、本物のウナギを持っていくべきだろうか…?それとも、前においしいと言ってくれた、ウナギもどき料理の方がいいのかな…?とりあえず、フォルツァと一緒に考えることにしよう。

 しかし浮かれる私にくぎを刺すように、レブルさんが忠告する。


「だが、フォルツァは相変わらず身分を隠している身である上に、シンシアも相変わらず貴族家を追放された身だ。フォルツァが正式に皇帝の位を継ぎ、その上でシンシアがその妃となるには、まだまだ時間がかかるだろう。…それどころか、何者かの妨害を受ける可能性だって十分にある」


「…」


 その通りだった。あくまでもでフォルツァは偽りの貴族の身、そして私は所詮、貴族家を追い出された身。このまま何も起きずに、事が進むようにはとても思えない。


「だからこそ、油断するなよシンシア。フォルツァはよく訓練されてるから大丈夫だろうが、お前はまだそういう経験が少ない。敵はどこから弱みを握ってくるか、分からないからな」


「はい、分かりました!」


 私たちは改めて、決意の意思を固める。せっかくつかんだこの幸せの生活を、壊されてたまるものか。


「じゃあ、俺たちも行こうぜ。話してたらすっかり腹が減っちまった」


 笑いながらそう言うレブルさんに、私も続く。


「ふふふ。ですね♪」

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