第28話

 …一日中かかり、ようやく監査が終わった。私たちはかなり体力的に消耗してしまっているけれど、ケーリさんたちはぴんぴんしている様子だ。…一体どういう体のつくりをしているのだろう…

 時間も時間なので、ケーリさんたちには泊まっていくことを勧めたのだけど、もうすでに次の仕事の準備があるらしく、引き上げるそうだ。フォルツァはすっかり打ちのめされてしまっているので、私とレブルさんが門まで見送りに行く。


「ケーリさん、今日は本当に勉強になりました!ありがとうございました!」


 私の言葉を聞いたケーリさんは、一瞬だけ少し不思議そうな表情を浮かべた後、少し笑顔になった。


「…話に聞いていた通り、まっすぐな方なのですね、あなたは」


「?」


「クスクス。私の監査で勉強になったなどと言ってもらえたのは、生まれて初めてです。私を見ると皆一様に嫌そうな顔をするものですから」


 ケーリさんはやや苦笑いを浮かべながらそう言った。しかし一転、表情を引き締めて続きの言葉を発する。


「…これから先、いくつもの困難があなた方を待っていることでしょう。こんな監査など、生ぬるいほどに」


 その言葉に、私もうなずいて答える。


「ですが拝見したところ、あなたにはそれを乗り越える力があるように感じます。こんな事は、私はめったに口にはしないのですが…」


「?」


「フォルツァ様を、お願いいたします、シンシアさん」


 そう言い、頭を下げるケーリさん。私も反射的に頭を下げ、それにこたえる。そのやり取りの後、ケーリさんたちは屋敷を後にしていった。

 2人きりになった門前で、レブルさんがぼそっと口を開く。


「…驚いたな。ケーリがあんなことを言うなんて…」


 手を顎下にあて、不思議そうにそうつぶやいた。


「そ、そうなんですか?」


 思わずそう疑問を投げた私に、レブルさんは相変わらず不思議そうに返事をする。


「前にも言った通り、ケーリはかなりの堅物だ。あんな風に笑ったり、ましてや誰かに期待してるなんて言ってるところを、見たことがないんでな…」


 レブルさんは一歩私の方に近づき、今度は少し笑いながら言った。


「もしかしたら、気に入られたのかもな、お前♪」


「わ、私なんかがですか!?」


 ま、まさか…王室の監査部部長に気に入られるほど、私は人ができてない…全くレブルさんは調子がいいんだから…


「と、とにかく戻りましょうっ!フォルツァがダウンしたままですので、早く起こしてあげないと…」


「クスクス。ああ、そうだな」


 何はともあれ、監査は無事に終わった。指摘されてしまった点は山ほどあったけれど、それは私たちがこれから一つ一つ乗り越えていく、いわばのびしろだ。私はケーリさんの言葉を裏切らないためにも、もっともっとがんばらなければ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る