第27話

「お、お待ちしておりました…」


 珍しく、フォルツァがびくびくしている。それほど警戒すべき人物なのだろうか…


「お出迎え、感謝いたします。本日はよろしくお願いいたします」


 いよいよ、ケーリさんが屋敷に襲来した。ケーリさんは思いのほか小柄で、どちらかというと可愛らしい顔立ちの男性だった。私はてっきり大柄で怖い男性を想像していたから、少しだけ拍子抜けしてしまう。


「あなたがシンシアさんですね。いつもフォルツァがお世話になっております」


「こ、こちらこそっ!よ、よよろしくおお願いしますっ!」


 いきなり声をかけられたせいで、変な声で返事をしてしまう。…心の中で笑われてないかなぁ…


「それでは時間もございませんので、さっそく監査のほうを始めさせていただきます」


 ケーリさんはそう言うと、数人の部下とともに屋敷の中へと入っていく。案内しているのはレブルさんだ。


「はぁ…もうおしまいだ…僕はここで死ぬんだ…」


 怒られ慣れていないからか、やや鬱になってしまっているフォルツァ。私は彼の手を取り、できる限り優しく声をかける。


「わ、私が一緒にいるから!元気出して!」


「…うん…」


 彼の手を取り、皆の待つ部屋へと足を踏み入れる。住み慣れたこの部屋が、今だけは敵陣のど真ん中のような感覚だ。私とフォルツァが隣に座り、机をはさんだ向かい側にケーリさんとその部下の人が座っている。皆の席にはそれぞれ、事前に私たちが用意した説明用の資料が置かれている。


「それでは、早速」


 ケーリさんはそう言うと、素早い手つきで資料に目を通していく。さすが監査部の責任者なだけあって、読んでいくスピードがかなり速い。私も皇室に入るころには、あれほどの実力を身につけなければいけないのだろうか…そう考えると、少し心の中が震える。


「…この資料、大変よくできていますね。記載漏れや数字違いなどはなさそうですし、レイアウトも非常に分かりやすく配置されています」


 それは良かった…レブルさんも含め、みんなで何度も回し読みして確認した成果があったというもの…


「では…この一時歳出費について説明をお願いいたします」


「ビクビクッ」


 目に見えて、フォルツァが震える…っというか今のは声に出てしまっていたような…


「こ、これはですね、領内で悪天候が続いてしまった時がございまして、皆の士気が下がっていたものですから、その向上を目的として各種お酒を含む嗜好品などの分配を」


「ダメです」


「…クスクスッ」


 絶対に笑ってはいけないのだけれど、そのあまりに予想通りの光景に、思わず少し笑ってしまう。はたから見れば、本当に先生に叱られる子どもそのものだ。


「…シンシアさん?聞いていますか?あなたにも関わることなのですよ?」


「は!はいっ!」


 …結局私たちは一日中、ケーリさんに絞られ続けたのだった。

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