第26話

「はぁ…まずいなぁ…」


 朝早くから、ため息をつくフォルツァ。こんな姿の彼はなかなか珍しい。


「どうしたの、フォルツァ?」


 彼は一間を置き、私の方に顔を向け、話を始める。


「…実は、皇室からケーリがここに監査に来ることになった…」




「ほう、ケーリがここに来るのか」


 フォルツァはズーンとした表情であまり話したくなさ気であったから、レブルさんに聞いてみることにした。


「どんな方なんですか?そのケーリさんって…」


 レブルさんは腕を組み、うーんと唸った後、私の質問に答える、


「…ケーリは皇室監査部の部長でな。監査部は主に、皇室に仕える貴族の金銭面の監査をつかさどるわけだが…」


 …それだけなら、フォルツァが彼を苦手とする理由がよくわからないけれど…


「…実はケーリは皇室の中でも、一番の堅物なんだよ。融通が利かないと言うか、真面目すぎると言うか…特に数字にはものすごくうるさくてな」


「な、なるほど…」


 だとしたら、フォルツァが会いたくなさ気なのもわかるかも…熱血教師を前にした、子どもの精神状態に近いんだろうか…


「だがその性格ゆえに、皇帝からの信頼は厚い。賄賂や不正なんて絶対にやらない奴だからな。しかし反対に、賄賂や不正をわんさとやっている貴族たちからは、敵視されている…」


「…そんな人が、どうして急にここに?」


 別にここでは不正なんてかけらもやっていないのに、なんの監査に来るんだろう?


「確かな事は分からないが、多分、財政監査だろうな」


 財政…それは貴族とは切っても切れないものだ。領民から徴収した税金は貴族の所有するところとなり、その使用に関して貴族には、絶大な権限が与えらえている。


「無論フォルツァは不正なんてやってないから、見られるのは多分、税金をきちんと上手に使えているかどうか…」


「あーーーーーー………」


 なんとなく理由が分かった。子どもが自分のお小遣いで変なものを買ってしまって、親に叱られるあれだろう。皇帝陛下はフォルツァがきちんと上手にお金のやりくりをしているかどうかのチェックを、自信が最も信頼するケーリさんに任せたのだろう。


----


「こ、これは領民みんなを集めて食事会をしたからこの出費になっているのであって…」


「ダメです」


「こ、これは家がボロボロでどうしようもないって困っている親子のために使ったお金であって…」


「ダメです」


「こ、これは屋敷のみんなに新しいお洋服をプレゼントしたからであって…」


「ダメです」


「これは…」


「ダメです」


「これは…」


「ダメです…」


----


 …なんてやり取りが容易に想像できる。要はフォルツァは、ケーリさんに叱られるのがおっくうなだけなのだろう。私はその足でフォルツァの部屋に足を踏み入れる。

 彼は相変わらず机に突っ伏し、ずーんとした雰囲気を放っている。私は彼を後ろから抱きしめ、声をかける。


「私も一緒に謝りますから、ね?元気を出してくださいな」


「…シンシアぁ…」


 涙目で、私の方に顔を向けるフォルツァ。その表情に可愛らしさを感じながら、私たちは準備に入ることとした。

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