第24話

「皆聞けーーーーー!!!!!!」


 その野太い声に、屋敷中の使用人たちがこちらに振り向く。


「これより全力で中央を目指す!邪魔立てなど無用!検問などしくやからがおれば、いくらでも賄賂をくれてやれ!!!!最速でいくぞおおおおお!!!!!」


「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」


 その男爵の掛け声を受け、一斉に出発準備が進められていく。提案した私たちですら、目を点にしていた。

 男爵は私たちに向き直り、打って変わって冷静に言葉を発する。


「その願い出、確かに承りました。これより後は、私が責任をもって担当します。皆さまはそちらのお屋敷にてお待ちください。必ずや、今日中に薬をお届けに入れて御覧に入れましょう」


「あ、あの、えっと…」


 その迫力に、圧倒されて言葉が出なくなる。私の言いたかったことは、レブルが代弁してくれた。


「…それはもちろんありがたい…だが、なぜここまで協力してくれる?そちらにだってメリットはないはずだが…?」


 私も、それを聞いてみたかった。協力してくれるのは心の底からありがたいものの、どうしてもそれだけが引っかかる。


「…あんたを見てると、なんか昔を思い出してな…」


「昔…ですか…?」


 男爵はどこか遠くを見つめながら、話を続ける。


「もともとは俺も、皆を幸せにするために貴族になったんだ。そのはずだった…だが…」


 だんだんと、表情を暗くしていく男爵。


「…貴族ってのは、思ってたほどかっこのいいものじゃなかったよ…反社や違法薬物に手を出すのは当たり前で、不正だって日常茶飯事だった…」


 その重々しい告白に、レブルさんも顔を伏せる。


「自分だけはそんな事はしないと、決めてたはずだったんだが…不正に手を染めた貴族家ほど裕福になって、真っ当な貴族家ほど困窮する一方だった…そしてそんなある日、ついに俺は一線を越えてしまった…」


「…一度超えたら、もう戻れなかった…そして気づいた時には、先日君が屋敷で見た、あの下品な貴族の完成だ…」

 

 自嘲気味に、笑う男爵。私は彼に何も、言葉をかけてあげられなかった。


「…だが先日見た君たちはまさに、あの日の俺だった」


「さっき、君に質問をしたろ?君のあの答えが全てだったんだ。かつて俺にはできなかった事を、君たちならやってくれると、俺は確信した」


「自分たちの事しか考えぬ貴族連中に罰を与え、帝國国民の皆の前に、明るい未来が広がる。そんな世界の実現を」


 力強い表情で、男爵が私に言う。


「俺は全力で君たちを応援する。そのための手も時間も惜しまない」


 私の横ではレブルさんが、やれやれといった表情を浮かべている。私は男爵に右手を差し出し、彼もまたそれに答えた。

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