第22話
「…」
私の案に、二人ともかなり驚いた表情をしている。まさに頭の上に、?が浮かんでいる状態だ。
そして次の瞬間、二人は同時に笑い始める。
「ハハハッ!何てこと考えるんだ君はっ!」
「だがそれがうまくいくなら、この上ない方法だな!」
フォルツァとレブルさんは互いに目を合わせて同意の旨を確認し、フォルツァが私に言った。
「君のおかげで、この親子を助けられるかもしれないよ!」
--数日後--
「家はどちらですか!?」
「はい!次の角を左です!」
荷物を持ち、彼女の母親のもとへと急ぐ。彼女の話では、もう本当に猶予がないらしい。手遅れになる前に、なんとしてもこれを届けなければ。
「お母さん!!!伯爵さまが薬を持ってきてくれたよ!!!!お母さん!!!」
私たちも彼女の後に続き、家の中に足を踏み入れる。そしてすぐに、彼女の母親の状態が目に入った。
「こ、これは…」
その凄惨な彼女の母親の姿に、私は思わず息をのむ。
「ああ…感染症の末期症状だ…敗血症ともいうべきか…」
フォルツァは医学の教養も有しているらしく、最低限の事は分かるようだった。
「伯爵様!!母にお薬を!!」
「ああ、分かってる」
フォルツァは連れてきた医師に目配せをし、すぐに注射薬の使用準備に入らせる。それまでの間、フォルツァは彼女に最終確認を行う。
「これは確かに、菌を安全に排除できる感染症の特効薬ですが、使用タイミングにおいて、手遅れという事があり得ます。どうかそれだけは、覚悟しておいてください」
「は、はい…」
残酷な事実だけれど、フォルツァは包み隠さずすべてを彼女に話した。お互いに、後悔などをしないために。
すぐに注射薬による薬の投与が始まり、それは断続的に行われた。効果の発現が確認されるまでおよそ半日、ここにいる皆にとってその時間は、無限にも思えるほど長く感じられた。
皆が祈るように回復を待つ中、耳を澄ましていないと聞き取れないほどの、小さくか細い声が聞こえた。
「…テル…テル…」
もうずっと意識のなかった彼女の母が、弱弱しくはあるものの瞳を開き、彼女の名を発した。
「お母さん!!!お母さん!!!」
彼女は母の左手を両手で優しく包み、言葉をかける。
「お母さん!!分かる!?助かったんだよ!!伯爵さまが!!助けて下さったんだよ!!」
少しずつ意識を回復する彼女はフォルツァの方にに体を向け、言葉を発する。
「…伯爵様…本当に…ありがとう…ございます…」
彼女の発した言葉は弱弱しかったものの、その言葉に宿る意思は力強かった。
「本当にありがとうございます!!ありがとうございます!!」
母に続き彼女も、床に両手をつき、フォルツァに感謝の言葉を述べる。フォルツァはそれを受け、どこかばつが悪そうに、苦笑いを浮かべながら二人に答えた。
「お礼なら、このシンシアに行ってください。彼女がいなければ、この薬は手に入らなかった事でしょう。お二人を救ったのは私ではなく、彼女なのです」
それを聞いた二人は改めて私の方に体を向け、感謝の言葉を告げる。あまり人から感謝をされない私には、どこか新鮮な感覚だった。
「お、お気になさらないでください!私は貴族の女として、当然のことをしただけですからっ!」
…母と娘とは、これほどまでに強い絆で結ばれるものなのか。私には二人の姿が、目に見えないほどまぶしく思えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます