第21話

「伯爵様!!何卒お助けを!!伯爵様!!」


 深夜だというのに、屋敷の門の前で誰かが叫んでいる。私もフォルツァもその声に飛び起き、何事かと顔を合わせる。


「どうやら、この領地内の民のようだが…」


 遠目に様子を見てきたらしいレブルさんが、私たちにそう告げた。


「まぁとにかく、会ってみるしかないだろう。伯爵たる私の民なのだから」


 フォルツァのその言葉に、レブルさんはやや否定的に返事をする。


「しかし、敵の伏兵かもしれん…どこからかお前が次期皇帝だという事を聞きつけて、暗殺に来た可能性も」


 正直私も、その可能性を懸念していた。私が知る限り、深夜に貴族家を訪れる民など聞いたことがないからだった。しかしフォルツァは、不安を浮かべる私たちに笑顔で答える。


「…その時は、お前が私たちを助けてくれるんだろう?レブル」


「…無論だ」


 フォルツァの問いに、力強く答えるレブルさん。


「なら、やることは決まっているさ。助けを求めている民を助けなくて、伯爵などが務まるものか」


 フォルツァの言葉に、私も力強くうなずく。私たちは急ぎ、屋敷の門前へと向かった。


「伯爵様!何卒お助けを!!!」


「!?」


 その姿を見て、私は驚愕する。両手両膝を地に付き懇願するその者は、私と同じくらいの歳の女性だった。…その姿はまるで、向こうにいた時の私のようだった。


「いかがした?なにがあったのだ?」


 フォルツァが優しく問いかける。その女性は凛々しい表情で、言葉を放った。


「私の母が…たった一人の家族である母が、重い病気なのでございます…知り合いの医師に診てもらっても、ここではどうする事もできないと…中央にさえ行けば、特効薬が手に入るとのことなのですが、私にはどうすることもできず…」


 涙ながらに、懇願する彼女。


「伯爵様!!どうかお願いします…母を…どうか…」


 その姿を目に焼き付けた伯爵が、冷静に返事をする。


「…事情は理解した。少しばかり、時間を」


 フォルツァはそう言うと少し下がり、私とレブルさんに手招きする。3人が集まったところで、フォルツァが口を開く。


「…中央は、認められたものしか立ち入ることを許されない。彼女はきっと、考えうるすべての事を試したが、どうしてもだめで、それでここまで来たのだろう」


 私とレブルさんは、それに頷く形で返事をする。


「…私の立場を利用すれば、特効薬など難なく手に入る。しかし…」


 口をつぐんだフォルツァのその先の言葉を、レブルさんが続ける。


「それをしてしまうと、話は瞬く間に広がっていき、もはや次期皇帝の立場を隠す事は出来なくなりましょう」


「そんな…」


 助けられる薬が存在しているのに、それを使えない。こんなに悔しいことがあるだろうか。


「フォルツァ、助けてあげようよ!早くしないと手遅れになっちゃうよ!」


「もちろん、僕もそうしたいんだが…」


 私たちの話に警告するように、レブルさんが告げる。


「フォルツァは立場上、中央の貴族に知り合いを作っていない。やるなら、自分自身でやることになる…」


「…」


 それぞれの思いが交錯し、なかなか答えが出ない。…こうしている間にも、彼女の母親は病魔にむしばまれているというのに…

 …そんな時、不意に私の頭の中に一つの可能性が浮かんだ。


「あ、あの!こういうのはどうでしょうか…!」

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