第20話

「シンシアさん、ここはどうすればいいかな?」


「えっと、これはですね…」


「シンシアさーん、こっちもお願いですー!」


「は、はーい!」


 …私の作る料理が信じられないほどの美味しさだと、いつのまにか近隣の人たちに話が広がってしまい、こうして私の料理教室が開かれるなんてことになってしまった。


「…なるほど、余った皮をそういう風に使うのんだ…」


「これすっごい美味しいよお母さん!うちでも作ろ!」


 参加者の方は高齢の方から小さな子どもまで、非常に幅広い。私には人前で何かをした経験なんてこれっぽっちもないので、自分でも戸惑いを隠せない。だけど…


「お姉さんこれ!前のお礼だよ!」


「わ、わたしに…?」


 大人の人をはじめ子どもたちまでもが、こうして心のこもったお返しをしてくれる。それはもう、私にはもったいないほどのものだった。


「なんだよ伯爵ぅ~。あんなすごい人がいるんなら、早く言ってくれよなぁ~」


「全くだぜ。お前はいっつも秘密主義なんだからよ~」


 同じ地方貴族の知人の方々が、フォルツァに言葉をかける。中央貴族から差別される者同士、彼らの親交は深い。


「まぁまぁ、そう言うなって」


 少し笑いながら、フォルツァは彼らに答える。彼らはフォルツァの正体をまだ知らないけれど、知ったとしても、きっとこの仲は続いていくことだろう。


「シンシアさん、シンシアさん!」


 不意に後ろから、誰かに話しかけられる。


「は、はいっ!」


「聞いたわよ!あなたあのむかつく男爵をしてやったんだって!!」


 この人は確か、地方貴族の使用人の方だ。


「い、いえっ、私はそんな大したことはっ…」


「謙遜しなくてもいいのよ。あいつにはみんなむかついていて、いつか痛い目見せてやろうって思っていたんだもの!」


 その方は優しく微笑みながら、私に言葉を続ける。


「地方貴族の心意気ってやつかしらね?あなたのおかげで、私も勇気がもらえたわ!」


 自分では全くそんな大きなことをやった自覚はないのだけれど、その彼女の言葉に、どこか嬉しさを覚える。


「…ねぇシンシアさん。ここは中央に見下される辺境地。それゆえにみんな大変な思いをしているけれど、あなたがこの地方まで来てくれたことが、私たちの唯一の救いね♪」


「?」


 その女性はそう言い終えると、上品に一礼をして去っていった。


「…私なんかが、みんなの救いに…?」


 艦所が言ったその言葉をかみしめていた時、後ろにいた子供たちが私に声をかける。


「おねえちゃーん!次は一緒に遊ぼーよー!」


「わたしもわたしも!!」


 数人の子どもたちに手を引かれ、足を進める私。私にはその光景がとてもまぶしく、暖かく感じられた。

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