第19話
男爵が屋敷を去り、私たちは作戦がうまくいったことにほっとしていた。
「それにしてもまさか、もどき料理を使ったトリックとはな…話には聞いたことはあるものの、本当に作れる人間がいたとは…」
「そうだろうそうだろう♪僕のシンシアはすごいんだぜ?」
「も、もう…フォルツァったら…」
フォルツァが得意気に、私の自慢をレブルさんにしている。フォルツァってば自分の事のように嬉しそうに話すものだから、なんだか恥ずかしさと申し訳なさが同時に来る…
「にしても、よく知ってたな。ウナギの味と食感を似せる食材の組み合わせんて…」
「はい…向こうにいた時に、ちょっと…」
私が少しだけ沈んだ表情になるのを、二人とも見逃さない。私のその言葉だけで、あまり思い出したくない出来事があったのだろうと、察してくれているようだった。
「…あの二人の事だ。どうせ、客人をもてなすのに高級な食材を用意する金がないから、なんとかしろってお前に言ってきたってんだろ?用意できなかったらお前のせいにするって脅しでも入れて」
そのレブルさんの言葉に、私は頷いて返事をする。二人ともまた一段と、あの二人に呆れた表情を浮かべる。
「なぁフォルツァ、前から聞きたかったんだが、お前あの二人をどうするつもりなんだ?」
レブルさんのその問いに、フォルツァは瞳を閉じて腕を組み、少し間をおいて返事をした。
「…仮にも、僕の母親と妹だ。反省してこれ以上罪を重ねないというのなら、ここまでにしてあげてもいいと思ってる」
フォルツァのその返事に、レブルさんがかみつく。
「おいおい、良いのかよ。あんなにシンシアを傷つけたやつらを放っておいて…」
レブルさんはそう言いながら、私の方に視線を移す。私の意見を聞きたそうな表情だ。
「…確かに私は、あの二人を心の底から憎んでいました…ですがここに来て、こうして皆さんと一緒に楽しくお話をして、一緒にお食事をしていく中で、空っぽだった私の心がどんどん暖かさで満たされていって…生まれて初めて幸せを実感して…そんな毎日を過ごす中で、二人への憎しみはどんどん消えていったんです。…完全にゼロ、というわけではありませんが…」
「シンシア…」
「…」
二人とも真剣なまなざしで、私の言葉を聴いてくれている。
「…だから私も、フォルツァと同じなんです。二人が反省して心を入れ替えるというのなら、私は二人を許してもいいと考えています…」
…本当にそう思っているのかは、正直なところ自分でも分からない。…やっぱり私は、お人好しが過ぎるんだろうか…?
「だが」
その時不意に、フォルツァが強い口調で言葉を放つ。
「もしも再び僕のシンシアを傷つけようとしたなら、今度は容赦はしない。徹底的に叩き潰す」
フォルツァはそう言い、私に右手を差し出す。私もまたそれにこたえ、彼の右手に自身の右手を添える。
「…はいはい、ごちそうさま」
そう言って背中を向けるレブルさんを見て、二人で微笑み合った。
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