第18話

 このままフォルツァが皇帝にありのままを進言すれば、男爵もその家族も、ただでは済まない処分となるだろう…

 レブルさんの話では、男爵家には生まれたばかりの幼い子供が2人いるのだと。その子たちの未来までも…


 門の直前まで追い出された男爵が、私たちに最後の言葉を叫ぶ。


「わ、悪かったと思ってる!本当に!だから見逃してくれよぉ!」


 私の隣に立つフォルツァは一歩前に出て、様子をうかがう。


「…」


 フォルツァは何も言わない。ただただ無言で、成り行きを見守っている様子だ。


「た、頼む!お願いだ!せめて子供たちだけでも助けてやりたい…!」


 その言葉を聞いて、ようやくフォルツァが男爵に言葉を発する。


「…今のあなたには、何よりも優先して言わなければならないことがあるのではないか?」


 …いわなければならないこととは、一体何だろう?私にも分からない…


「わ、分かってる!君たちの婚約が、前向きな形で進むよう貴族会に進言させてもらう!約束する!」


 男爵は確信的に、満面の笑みでそう言った。しかし一方のフォルツァは、相変わらず表情を変えない。


「…違う。そんなことではない」


「!?」


 私も含め、男爵も全く理解ができていないようだ。フォルツァは一体男爵に、何を言わせようとしているのだろうか…?


「…君はシンシアを傷つける発言をした。それに対する謝罪の言葉を、私は全く聞いていないのだが」


「!?」


 男爵以上に、私が驚愕した。…正直もう、気にさえしていなかったから…

 男爵はその言葉を聞いてハッとした表情を浮かべ、私の方を見る。その顔はみるみる涙目となり、そのまま彼は両膝を地に着いた。


「…シ、シンシアさん…ほ、本当に…ごめんなさい…」


 男爵は両目から涙を流し、両膝をついて私にそう言葉をかけた。肩が震え、嗚咽も聞こえる。心の底から後悔している証拠なのだろう。

 しかし私はどうしていいか分からず、思わずフォルツァの方に視線を移す。彼は優しい表情で、私の方を見た。私の事を信じていると、心を通じて彼の思いが伝わってきた気がした。私の答えはもう、決まった。


「…ブーシャ男爵、あなたの言葉を信じます。臣下の言葉を信じるのは、妃となる者の務め。あなたには帝国発展のために、これからも尽力していただきたく思います」


 私の言葉を聞いた男爵は、一段と流す涙の量を増やし、震える声で私に言った。


「あ、ありがとうございます…ありがとうございます…ありがとう…ございます…」




「僕としてはどちらでも良かったんだけど、君は本当にあれで良かったのかい?」


 男爵が帰ってから、フォルツァが私に疑問を投げる。


「男爵は泣きながら謝って、頭まで下げたんです。…あれだけ馬鹿にしていた私に。あの謝罪私には、嘘には思えませんでしたから…」


「シンシアは、お人好しだねぇ」


 やや苦笑いを浮かべながら、フォルツァがそう言った。


「それと、もうひとつ理由があるんです」


「?なんだい?」


 男爵のおかげではっきりしたのは、私たちの婚約を快く思っていない者が、一定数いるという事実だ。それがきちんと判明しただけでも、私は彼を許してあげてもいいのではないかと思ったのだ。結局これも、私がお人好しなだけなのかもしれないけれど…

 そんな顔の私を見て、フォルツァが声をかけながら抱き着いてくる。


「なにがあっても、君の決断を信じるよ。僕は、君が大好きで仕方がないんだからねっ♪」

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