第17話

「ではシンシア、お答えを」


「は、はい…」


 これまでに味わったことのない、独特な緊張感が全身を包む。


「こちらのお料理は…」


 心を落ち着かせ、フォルツァを信じ、自信をもって答えた。


「トウフにヤマトイモ、それにノリでございます…」


「は、はぁっ!!」


 驚愕の声を男爵は上げる。そんな男爵に構わず、私は続ける。


「従いましてこちらのお料理には、ウナギなど一切使用しておりません」


 反射的に机をたたいて、男爵が抗議の声を上げる。


「そ、そんなことがあるか!!確かにウナギの味が…!!」


 感情的に声を上げる男爵を落ち着かせるように、フォルツァが冷静に口を開く。


「お聞きになった通りです。こちらの料理には、ウナギなど全く使用しておりません」


「ざ、戯言を…そんなはずがないっ!!」


 現実を受け入れられない様子の男爵に、フォルツァが答え合わせを始める。


「あなたが召し上がったのは、もどき料理と呼ばれるものです」


「も、もどき料理…だと…」


「もどき料理とは、野菜やトウフなどを用いて、肉や魚に見た目や味を似せて作られる料理の事です」


「な、なんだと…それじゃあ私は…」


 落ち着きを取り戻したのか、男爵は少し気持ちが収まってきているようだ。


「ウナギなど入ってもいない料理を口にして、長々とあれだこれだと語っておられましたね。大変勉強になりました」


「ですがこの結果により、私はあなたの言葉を信じることができなくなってしまいました。皆の血税で買いあさっておられた高級ウナギを、あなたの舌は全く見抜けなかった」


「ぐうう…」


「さらに言えば今回使用したヤマトイモは、あなたの領有地の特産品でもあります。あなたはさきほど、私におっしゃった。きちんと民たちの事を理解しているのかと。話を聞いているのかと」


「ううう…」


「理解などせず話も聞いていなかったのはあなたの方なんじゃないですか?あなたの領有地で皆が懸命に育てているヤマトイモすら見抜けず、あろうことかその皆の血税をわがもの顔で浪費し、そのくせにこういう時だけは皆を束ねる貴族面をする」


 フォルツァの進撃はもう止まらない。男爵はただ、彼の言葉を受け入れるしかなかった。


「帝国にとって本当にマイナスな存在なのは、シンシアなどではなくあなたなのでは?あなたはそれでも」


「分かった!分かったからもうやめてくれ!!」


 それまで黙って聞いていた男爵が突然大きな声を上げた。ついさきほどまでの高圧的な表情は消え、反転して許しをこう表情を浮かべていた。


「わ、わかった!もうわかった!黙って帰るから、もういいだろ!?な!?」


 …ついさっきまで高圧的に賄賂をねだってきていたくせに、本当にみっともない。


「そうはいきませんねえ。あなた自身が帝國国民に全く向き合っていないにもかかわらず、私たちがそうだと言いがかりをつけ、その上シンシアを心無い言葉で傷つけたこれらの行いは、すべて父上に報告させていたく。ご覚悟を」


「そ、そんなぁぁぁぁ…」


 男爵はその場に倒れこみ、部屋の外で待機していたレブルさんたちによって屋敷の外へと運び出された。

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