第15話

「ひとつ、提案をさせていただきたい」


 曇りの一つもないまなざしで、男爵に向かうフォルツァ。


「言ってみなさるがよい、次期皇帝よ」


 こちらが口車に乗ったからか、やけに強気に話す男爵。


「男爵は、ウナギ料理がお好きだとお聞きしました」


「いかにも。各地よりいろいろな高級ウナギを取り寄せては、専属料理人に調理をさせておる」


 …フォルツァは男爵に高級ウナギを賄賂として贈るつもりなんだろうか…?


「今からこのシンシアが、ある地から取り寄せたもので調理をいたします。それをお召し上がりいただき、それがどの地から取り寄せたものかを、当ててみて頂きたい」


「はぁ?なぜ私がそのような…」


「先ほどおっしゃったではありませんか。きちんと皆の事を理解しているのか?と。民たちから巻き上げた税金で、贅沢にも高級ウナギを頬張るあなたは、それらに関してきちんと理解をされているのか。私はそれを確認したいのです。もし正確に当てられたのなら、あなたの言葉には真実味があると、私は考えます」


「…ほぅ、なるほどな。いいだろう、面白い。その提案に乗ってやろうじゃないか。それで、負けたら君らどうする覚悟だ?」


「あなたのお考え通り、帝國のためと信じ、シンシアとの関係はここまでとしましょう」


「くふふ。残念だったなぁ、シンシアさん。どうやらあなたはここまでみたいだ…くふふ」


「…」


 私は冷や汗をかいていた。理由は複数ある。まずなにより、私はウナギの調理なんてやったこともない。ウナギに関して舌が肥えているだろう男爵をだませるような料理方法も思いつかない…そして私が失敗したら、フォルツァとのこの幸せな時間も終わってしまう…ほかならぬ私自身の手で、終わらせてしまうことになる…


「じゃあ、早く作ってくれ。私は忙しくて時間がないんでね」


 そっちから押しかけてきておいて、なんと図々しい。思わずむっとした表情の私の方をフォルツァが優しく抱き、そのままその部屋を後にした。


「フォ、フォルツァ…私ウナギ料理なんて…」


 消え入るような私のその声を聴いて、フォルツァは不思議そうな顔を浮かべる。


「シンシア、ウナギ料理をしろだなんて、誰も言っていないよ?」


「へ?」


 フォルツァの言葉に、思わず変な声が出てしまう。確かにさっき男爵と、そんな話をしていたと思うんだけど…

 そんな私に構わず、フォルツァは言葉を続ける。


「シンシア、君にやってもらいたいことがある。難しいのは承知の上だけれど、君のその料理技術なら、実現してくれると僕は確信してる」


 フォルツァのその真剣なまなざしに、私も深呼吸をして心を整え、その内容を問いかける。


「…ふぅ。分かりました。私は何をすればよろしいでしょうか?」


 フォルツァのアイディアは、衝撃のものであった。

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