第14話

 私とフォルツァは隣に座り、机をはさんだ向かいにはブーシャ男爵が腰掛ける。この男、次期皇帝の妃となる女の顔を早く見たい!と言って、事前に話もなく勝手に乗り込んできた。そして部屋の中に通され、私の顔を見るなり、こう言った。


「…こちらの方が、次期皇帝フォルツァ様の妃となられる女性、ねぇ…」


 男爵は気持ちの悪い不敵な笑みを浮かべながら、私の姿をなめ回すように見る。


「ええ。私は彼女を心から愛していますし、彼女もまたそれにこたえてくれています。妃となるための大変な仕事も、しっかり取り組んでくれています。なんら、問題はない事と思いますが」


 私の隣に座るフォルツァが、冷静に言葉を返す。私が震える右手でフォルツァの左手を握ると、彼は優しく握り返してくれた。そのぬくもりのおかげか、手の震えが少しずつ、収まっていくのを感じる。


「けっ。愛などだけで帝國は機能しませんよ。大体どことも知らぬ貴族令嬢を妃とするなど、これまで聞いたことがありません。特別顔が美人なわけでもなく、美しい姿をしているわけでもない…この女はっきり言って」


「おっとそれ以上の発言は、この私とて聞き流すことはできませんよ?」


 男爵の言葉を遮り、フォルツァが制止する。

 …やっぱり、私なんかが皇帝の妃になるだなんて、無理だったんじゃ…と、顔を俯かせていた時、男爵は再び言葉を発した。


「はぁ…臣下の者たちも悲しみましょう。自分たちが帝国のために懸命に働いているというのに、どことも知らぬ女に…。あなたは本当に臣下の者たちの声をきちんと聴いているのですか?きちんと皆の事を理解しているのですか?本当にこのままで良いのですか?次期皇帝さんっ?」


 …男爵は、もはや私たちを煽っている。いや、挑発しているともいうべきか。多分この人は、貴族会で私たちの婚約を後押ししてやる代わりに、何か見返りをよこせ、という腹積もりなのだろう…


「…なるほど、お考えはよく分かりました。ではひとつ、私から提案をさせていただきたい」


「ほぅ、さすが次期皇帝。話の分かる男で助かるよ」


「フォ、フォルツァっ!」


 フォルツァは私なんかのために、この男の口車に乗るつもりなんじゃ…本能的にそう思った私は、咄嗟にフォルツァに小声で告げた。


「き、気持ちはすごくうれしいけど、これ以上話を進めたらこの男の言いなりに…そうなったら、次期皇帝のあなたの立場も…私はどうなっても大丈夫だから、せめてフォルツァは…」


 私の心からの言葉を聞いたフォルツァは一瞬目を閉じ、開く。私の大好きな彼の笑顔とともに。


「言っただろう?僕は君を愛してる。だから、僕を信じてくれって」


 フォルツァは優しく私の頭をなで、男爵に向かい、提案の内容を告げた。

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