第12話

「す、すごい顔ぶれ…!」


 今日はフォルツァが主催した、特別食事会。フォルツァが認める一部の関係者のみ招かれた、小規模な食事会ではあるものの、集まった顔ぶれはすさまじいものだった。皇室の関係者から、貴族の関係者、さらには名の知れた芸術家まで。ついこの間まで、いじめられながら屋敷でひきこもりをしていた私には、息が詰まってしまいそうなほどに、まぶしすぎる光景がそこには広がっていた。

 そんな中でどこからか、フォルツァ達が話をする声が聞こえてくる。


「こ、これはすごい…」


「ああ…まさか帝国にこんな食事を作れる人がいただなんて…」


「そうだろうそうだろう♪シンシアはすごいんだぞ?」


 私は足早にフォルツァのもとに駆け寄り、言葉を発した。


「は、はずかしいからやめてよ、フォルツァっ!」


 私は恥ずかしさのままに、フォルツァの肩を軽く叩く。彼と一緒にいた二人はそんな私を見て、一瞬驚いた表情をした後、大きな笑い声をあげた。


「ハハハ!これは確かに、皇帝の妃様として申し分ないですなぁ」


「ええ、全くです。皇太子さまを叩ける女性など、帝國中を探したって見つからないでしょうなぁ」


 二人は満面の笑みを、私に向ける。それを見て、私は一段と恥ずかしさが込み上げてくるのを感じた。


「も、もぅ…からかわないでください…」


 顔が真っ赤になっているのが、自分でも分かる。


「いやいや、これは申し訳ない。あまりにも可愛らしかったものですから」


「私もです、クスクスッ」


 ただでさえこういった場には慣れていないのに、ますます体が小さくなっていく感覚…そんな時、不意に後ろから誰かに話しかけられた。


「あなたがシンシア様ですね。はじめまして、私はマリアチと申します」


「は、はじめまして…」


 緊張から、どこかかぎこちない挨拶をしてしまう。そんな私の横から、フォルツァが挨拶に加わった。


「マリアチさん、お久しぶりですね」


「これはこれは皇太子さま。その節は大変お世話になりました」


 …二人とも笑顔で会話をしているけれど、私でも感じられるほどの殺気を互いに発している。…この二人の間には、過去に何かあったんだろうか…?


「…実は私、この後仕事がございまして。恐れながら本日は、挨拶だけとさせていただきます。何卒お許しを」


「気にすることはありません。あなたのお仕事は、私もよく存じておりますから」


 その言葉を最後に、マリアチさんは簡単な別れの挨拶を告げてこの場を去っていった。


「ねぇフォルツァ、あの人は?」


 私の投げた疑問に、少し言葉を選びながら答えるフォルツァ。


「ああ、彼はマリアチさん。帝國を支える皇室の人たちを指揮する、皇室長なんだ。優秀な人だよ」


 …決してそれだけではない何かを感じたけれど、ここで聞くのは無粋な気がして、一旦私は飲みこむことにした。


「さぁ、食事会に戻ろう♪」


 私の手を引き、足を進めるフォルツァだった。

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