第11話

 私がいつものように屋敷の掃除をしていた時、突然フォルツァの部屋に呼び出された。今までなにか話があるときには、決まって向こうからこちらに足を運んできてくれていたから、一体何事だろうと考えを巡らせる。特に怒られるようなことは、していないと思うんだけれど…

 部屋の前まで到着し、ノックをはさんで部屋の中へ足を踏み入れる。


「わざわざすまないね、シンシア。実は君に、渡したいものがあるんだ」


「?」


 フォルツァはそう告げると、どこに隠していたのか大きな箱を私の前まで持ってくる。不思議そうに箱を眺める私に、彼は続けて言葉を発する。


「開けてみて!」


 言われるがままに、私は箱の梱包を解いていく。


「これって…」


「そう!お洋服に、ドレス!」


 箱の中には、華やかなお洋服とドレスが入っていた。しかし私は性格のせいか、感謝の言葉よりも驚きの言葉が先に出てしまう。


「で、でもどうして…?」


「そ、それは…」


 どこか恥ずかしそうに、言葉に詰まるフォルツァ。私はただ、彼の言葉の続きを待った。


「今日で君がここに来てから、ちょうど一か月なんだ。だから、その記念にというか…その、日々の感謝を込めてというか…」


 後半になるほど、声が小さく弱弱しくなっていく彼。顔を赤くするその姿に尋常ではない愛おしさを感じながらも、彼の言葉にハッとさせられる。…忙しい毎日に明け暮れて、そんな事かけらも覚えてもいなかった。


「…」


「…シンシア?」


 だんだんと胸が熱くなり、気づいた時には少し涙がこぼれそうになっていた。これまで記念日やプレゼントなどとは無縁な人生を送ってきた。そしてそれは、これからも続くものだとばかり思い込んでいた。だから、彼がくれた言葉と気持ちが、たまらないほどうれしかった。


「…私なんかが、良いのでしょうか…こんな幸せを受け取ってしまって…」


 私の言葉を聞いたフォルツァは、ゆっくり私の手を取り、優しく言葉をかけてくれる。


「言っただろう?必ず君を幸せにしてみせるって。もう、離してあげないから♪」


 私が上げた顔に、優しく口づけをする彼。私は脳がとろけてしまいそうなその感覚に、身をゆだねた。



「はい、できましたよ!」


 手伝いに来てくれていた使用人の女性が、仕立て終了の言葉をかけてくれる。私は両目を開け、鏡に映る自分の姿に目をやった。


「これが、私…?」


 …自分でも驚くほどの、別人がそこにはいた。簡単にではあるもののメイクもしてもらっているとはいえ、これまでそういった事を一切経験してこなかった私には、信じられない光景だった。


「これは、皇太子さまも惚れ直しちゃうこと間違いなしですね♪まったくラブラブでうらやましい♪」


「か、からかわないでってばっ!」


「はいはい、ごちそうさまです♪」


 この姿をフォルツァに見せた時の反応は…

 …ご想像にお任せですっ!!!

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