第7話

 私は軽蔑されるのを覚悟で、伯爵にすべてを打ち明けた。理由はわからないけれど、この人には私の全てを知ってもらいたいと思ったから…

 けれど伯爵は軽蔑するどころか、私を自身の胸元へ抱き寄せ、その優しい声で私に愛をささやいてくれた。愛など知らぬ凍りついていた私の心が、ぬくもりを感じながら徐々に溶けていくような感覚を覚える。私は伯爵の心臓の鼓動を耳で感じながら、そのぬくもりに身をゆだねていた。


「シンシア、僕も君にすべてを打ち明けるよ」


 伯爵は私を抱き寄せたまま、私の目を見つめながらそう言った。私は力強くうなずき、伯爵の言葉を待った。もはや彼がどんなことを打ち明けてきたとしても、私はこの人と添い遂げる覚悟だった。しかし彼が話した内容は、私が覚悟していたようなものとは正反対だった。


「…実は僕は、貴族ではないんだ。本当の僕は、アルカ帝國皇帝フォーサの息子。世間で言うところの、皇太子なんだ」


「!?」


 なんの、冗談だろうか?全く想像もしていなかったその言葉に、私はついていけず絶句してしまう。…正直私は、彼が何かマイナスな事を打ち明けてくるのだろうと思っていた。実は貴族でなく平民であったとか、貴族であっても貴族位の剥奪が決まってしまった、とか…


「え、え?え、、え?」


 何も返事をしないわけにはいかないので、なんとか言葉を発しようとはするものの、言葉にならぬ言葉が口からこぼれる。そんな私の状態を察してか、彼は順を追って丁寧に事情の説明を始めた。 

 …聞いた話を要約すると、政治や財政の経験を積むためにわざと地方貴族となった事、あえて評判を落とすというやり方で婚約者を探していたという事、そして何より、私と二人で帝国の未来を創っていきたい、と考えている事。


「も、もちろん隠してたのは僕だから、もしもがっかりしちゃったなら…」


 少ししょんぼりした様子で、不安そうに私の目を見つめてくる。私にはその表情が、なんだかすごくかわいく思えた。


「大丈夫ですよ、伯爵。…正直すごくびっくりしちゃいましたけど、私はもう伯爵とずっと一緒にいたいです。…こんな私でよければ、ですけれど…」


「も、もちろん!」


 互いに頬を赤くし、見つめあう私たち。…その日の夜は一晩中、心の底から愛し合った。



「…伯爵、朝ですよ、伯爵」


「…あ、シンシア…おはよう…ございまぁす」


 寝ぼけている様子の伯爵の顔を見て、どこか安心感を覚える。この人が将来の帝国皇帝だなんて、正直今でも信じられない。それほどに彼はどこかかわいいというか、堅苦しさが感じられないというか…


「ねぇシンシア、お願いが…!」


「?」


 一体、何だろうか?あんなことを聞いた後だから、もう何を言われても動揺しない自信はあったものの、伯爵のお願いはまた私の想像外のものだった。


「な、名前で呼んでほしいな、なんて…」


 …どこか恥ずかしそうにそう言った彼に、一段と愛おしさを覚えた。

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