#6

「さっきも言ったが話せば長くなる。だけど少しだけ俺の昔話を聴いてくれないか。俺は生まれてからしばらくは真面目に天に使えていた。神の命を受け、人々を影から見守っていた。ある日ちょっとした失敗で俺は人間の世界に落ちた。いくら真面目に仕事してても失敗はするだろう?俺たちは神に仕えているが神様じゃない。地上には落ちたが俺はまだこの時点では天使だ。天使から人間にされてしまうにはいくつか条件がある。俺は地上に落ちた衝撃で片方の羽を折ってしまった。お陰ですぐに天に戻ることができなかった。どこにも動くことが出来なかった。そんな俺を見つけた1人の女性がいた……それがデビーだった。彼女は俺の姿に臆することなく俺を助けてくれた。家のベットに寝かせてくれて、何日も匿ってくれた。そんな献身的に尽くしてくれる彼女に僕は心惹かれてしまった。さっき天使が人間になってしまうにはいくつか条件があるって言ったよな?俺はその一つを犯してしまったんだ。人間に恋をし、その人間との間に子供を授かる。天使は人間と恋仲になってはいけないのだ。それなのに俺は彼女に惹かれ、彼女との間に子供を授かってしまった。俺はこうして人間になった。その時は人間になったことを後悔していなかった。とても幸せだった。ただその考えはすぐに変わった。娘が誕生してデビーの態度が一変した。娘が生まれてしばらくしたある日、彼女は僕にナイフを向けてきた。邪魔になったんだ、真面目で元神に使える俺のことが。

 彼女に騙されていたんだ、俺は。彼女は僕なんか好きじゃなかった。ただ僕の天使の血が欲しかったんだ。だから僕に献身的に尽くし、僕をその気にさせた。

 ナイフを向けながら教えてくれたよ。彼女は聖母マリアになりたかったんだ。救世主を産んだ神の母に。そんな邪な心で神の母になんてなれるわけがないだろうと俺は諭した。だけど彼女は聞く耳を持たなかった。事実はどうでもいい。いくらでも話はでっち上げることができると。悲しかった。裏切られたことも、自分の大事な娘も守れない無力さも。涙を流している間に彼女は僕の心臓にナイフを突き刺した。

 彼女は実の娘を利用して自身を英雄にしようとしているんだ。セラの気持ちなんか無視して。彼女を救い出そうと何度も試みたが、無理だった。だからお願いだ。君に僕の愛娘を助けて欲しい。自由にしてやってほしいんだ」

 彼の話を聞き、僕は答えた。

「もちろん助けますよ。僕もセラを放っては置けないので」

 セラのお父さんにお願いされたから助けにいくのではない。事情を聞いて僕の中の怒りが沸々と湧き上がってきている。僕がそうしたいと思ったから、僕は彼女を助けにいく。

「今すぐにでも助けに行きたいところですが、こんな明るい時に真正面から行ってもさっきと同じ展開になるのは目に見えてます。日が沈み出した頃、またここで落ち合いましょう」

 僕はサンディにそう提案した。

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