#5
すっかり明るくなり、あたりには朝靄がかかっている。自宅までの道は来る時よりも遥かに遠くに感じた。無力な自分に打ちひしがれてとぼとぼと歩いていると、背後の方から声が聞こえた。
「おい、そこの少年。ちょっと待ってくれ」
声のする方を振り返ったが、誰もいない。
「ここだ、ここ。よーく目を凝らしてくれ」
言われた通りに目を凝らす。よく見ると朝靄の中に人影……性格に言えば足のない人の影があった。足がないって……僕ははっと気がつき、悲鳴が喉の外に弾き出される寸前まで来ていた。それに気がついた幽霊は僕の口元を押さえる。
「おっと、お願いだから驚かないでくれ。君にお願いしたいことがあるんだ」
僕は恐怖を必死に抑えてなんとか目の前にいる幽霊の話に耳を傾けた。
「お、お願いしたいことって? 」
「話せば少し長くなるんだ。ただもう朝だ。人通りが少ない場所だとはいえ、人が全く来ないわけではない。人間に見られるのはちょっと都合が悪い。だからあそこの茂みで話をしよう」
僕は彼の言われるがままに、人目のつかない茂みの方へと歩いていった。
「自己紹介がまだだったね。僕はサンディ。見ての通り元人間だ。そして元天使でもある」
「天使? 」
幽霊の口から予想外な言葉が出てきて、僕は驚いた。
「そう、その話は後でしよう。そして君がさっきまで一緒にいたセラの父親でもある」
情報量が多すぎて頭が混乱しそうだ。セラの父親は彼女が幼い頃に亡くなったとは聞いていた。だが、お父さんが天使だったなんてて言うことは彼女からは聞いていない。
「彼女も知らないよ。僕が天使だったのを知っているのはデビー、彼女の母親だけだ」
「セラが呪いをほぼ受けない体質に生まれたのはあなたが天使だから? 」
「僕も詳しい原因はわからないけど、おそらくそういうことだと思う」
セラが呪いを受けずに済むのは天使の加護のおかげだった。彼女の母親の言っていた神様から授かったものというのはあながち間違いではないようだ。
「元天使で、今は幽霊のサンディさん。僕にお願いしたいことって? 」
「君に娘を……セラを助けて欲しいんだ。僕の血を引いたせいで、あんなひどい目に遭っているのを、僕はもう見ていられない」
母親とは正反対の言い分に僕は息を呑んだ。
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