#3
「この世の中には呪いというものがある。実際に効果のあるものもあれば、全く効かないものもある。強さもそれぞれ。儀式に成功すれば人だって殺せる。ただ私の体は呪いという呪いは全て効かない。もちろん、強力な呪いであれば、体に傷ぐらいはつくけどその程度」
「どうしてセラの体には呪いが効かないの? 」
「わからない。お母様はいつも、あなたは神様から特別な力をもらったんだって言われてる。きっと神様は何か理由があってあなたにその力を与えたのだからそれを世のため人のために使いなさいって」
「だからいろんな人を、セラは体を張って呪いから守ってるの? 」
「それが私の役目だから……」
僕の目に映る彼女の横顔は、なんだが悲しそうに見えた。こうして人々を呪いから守る度に、先ほどのような傷を身体中に作っているのだろう。どことも知らない他人に向けられた恨みを無条件で引き取るなんて、それは果たして彼女の本当の役目なのだろうか。母親はこの行為を認めているどころか、彼女に勧めている。僕は人の親じゃないからわからないけど、大事な娘がこんなにも傷ついているのに平気でいられるものなのだろうか。
「もうこんなことやめよう。君はもっと君自身を大事にするべきだ。こんなことしてたらいくら呪いに耐性のある君でも命を落としかねない」
「でも……」
「知っている人間や、大事な人のためならともかくとして、赤の他人のためにそこまで自分を犠牲にする必要があるのか? 」
「……あなたはどうなの? 」
「え? 」
彼女から放たれた返答に僕は固まってしまった。
「あなたのようなお人好しが、人に呪いをかけたいって思っていること自体に違和感があったの。それに……あの呪いのターゲット、あなたよく知らない人でしょ? 」
「どうしてそんなことがわかるの? 」
「人を呪うためには相手の情報を呪いに刻み混む必要がある。儀式をしたから知っているでしょ?私は受けた呪いからありとあらゆる情報を読み取ることができる。あなたは呪う相手のことをよく知らなかった。だから呪いが自身に返ってきてしまった。誰かに頼まれて儀式を行ったんでしょ? 」
彼女の言う通りだった。僕は知人に頼まれて、人を呪うなんてことをしようとしていたのだ。
つい先日、知人が彼女に振られた。詳しくは聞かなかったけど相当ひどい振られ方をしたそうだ。彼は僕にそのことについて相談してきた。彼女が憎い。今も彼女がいつもと変わらぬ日常を送っていると考えるだけで腹が立つと。そこで彼女を呪ってやりたいのだけれど手伝ってくれないかと、僕に言ってきた。人を呪わば穴二つ。呪ってやりたいほどに元カノが憎いが、呪いの儀式をして、自分に何かあったら困る。知人は自分の身が可愛いのだ。だから代わりに彼女を呪ってくれと、そう頼まれた。見ず知らずの人間を呪うなんて断るのが普通だろう。だけど僕は断ることができなかった。こう言う時、はっきりとものが言えないのが僕の欠点だ。彼は僕の断れない性格に漬け込んだのだ。だから僕は今さっき、一人で森の奥へ行き、顔も見たことのない人を呪うために儀式を行った。結果失敗して、呪いは僕の元へ返ってきた。
確かにこんな男に自分をもっと大事にしろと言われてもまるで説得力がないだろう。それでも、僕はセラのことをどうにかしてあげたいと思うのだ。
「君が人の呪いを受け続ける理由はお母さんかい?だったら僕が一緒に説得しに行ってあげる。きっと言えばわかってくれるさ」
「どうして私にそこまでしてくれるの?あなたのお人好し……それこそ自己犠牲じゃない」
「わからないけど……でもこれは自己犠牲じゃない。僕がそうしたいんだ。もちろん、セラが迷惑でなければの話だけど」
「……私、もうこんなこといや。どこの誰とも知らない人のために痛い思いをするのはもう辛いの」
「それじゃ、決まりだね」
僕はセラの家までついていくことにした。
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