#2
彼女は何事もなく、僕を置いてその場から立ち去ろうとしたが、僕からしたら彼女に聞きたいことが山のようにあった。どうしてこんな森の中を一人でいたのか、どうして僕を助けてくれたのか、呪いが効かないとはどういうことなのか……
「ちょ、ちょっと待ってよ」
彼女は僕の声に気がつき、振り向く。
「助けてくれてありがとう。僕はレン。君の名前を聞いていいかな? 」
「……セラ」
ぽつりと呟くと、彼女はまた、歩みを進めた。僕はその後を追いかける。
「ねぇ待ってって。こうして会えたのって何かの縁じゃない? せっかくなんだし、仲良くしようよ」
僕のことなんてまるで見えてないかのように彼女はスタスタと歩いていく。僕は必死に彼女を追った。
「ねぇ、聞こえてるでしょ?ちょっとは答えてくれたっていいんじゃない? 」
僕が言うと彼女は突然立ち止まった。そして隣にいる僕の顔を見た。雲にかかっていた月が姿を現し、わずかながらにあたりを照らす。黒く澄んだ瞳、瞳と同じ黒い髪が、月明かりに照らされ、彼女をより美しく見せた。
「しつこい男には関わるなと、お母様から言われているの」
それだけ言うと、彼女は森の小道をスタスタと歩き出した。僕はその言葉にかなりショックを受け、立ち尽くした。彼女のことを知りたいがために必死になってしまっていたとはいえ、確かにこれでは街でナンパしている男と何ら変わりがないじゃないか。彼女が不快に思うのも無理はない。僕はこれ以上、彼女に付き纏うのはよくないと思い、とりあえず先ほどいた場所まで戻ろうとした。しかし、どういうわけか、後ろから足音が聞こえてきた。その足音はどんどんと近づき、ついには小柄な手が僕の右肩を掴んだ。
「儀式を行った場所、特に失敗した場所は何が起こるかわからない。引き返したらまた私の仕事が増える」
「ご、ごめん……」
彼女はため息を一つつくと
「あなた、街の人でしょ?森を出るまでだったら付き合ってあげる。私も少しあなたに聞きたいことがあるし」
と続けた。先ほどまでかかっていた雲はいつの間にか流れていて、月だけでなく、周りの小さな星々たちも瞬いていた。
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