第123話
ぐっと唇を噛み締めたアプリ。悔しそうに涙を浮かべる──が、すぐに目を細めて……笑った。
「死ぬならお前も一緒だ……!」
そう叫んだ瞬間、マルの身体に無数の光の矢が突き刺さる。
「──っ!?」
「……僕の矢はっ、お前を逃さない──!」
そう言ったと同時に、意識を失いアプリが倒れた。意識がなくなったせいか、マルに刺さった光の矢は消える。
どうやら彼が放った光の矢はその手を離れてもアプリの意思で自由自在に操れるらしい。的から外れた後アプリの意思を通わせた無数の矢たちはその姿を潜め、反撃の機会を待って一斉にマルに向かったようだ。無闇に弓を引いていたわけでも、命中率が低いわけでもない。れっきとした作戦だったのだ。
主人公パーティーがリングの外から必死でアプリに呼びかけるが、意識は辛うじて戻ったものの身体に力が入らないようだ。
マルは身体中から血を流しながらも今にも倒れそうに揺らぐ脚を必死で踏ん張っている。それでも、アプリにとどめをさすほどの力は残っていない。
審判によりダウンのカウントが取られていく。マルは眉間にシワを寄せ、アプリを見下ろして──。
「……悪かったな」
「──っ!?」
確かに、そう言った。
アプリは信じられないとばかりに顔を歪める。それと同時に私の頬を一筋の涙が伝った。
原作ではこんなシーンはなかった。絶対に。マルは最初から最後まで完全なる悪役に徹していたからだ。
彼は変わったのだろうか。どうして?答えは誰にも分からない。だけど──憎まれ口を叩く生意気なツンデレ要素たっぷりの彼は、やはり原作を読んだだけでは分からなかった。目の前の彼が本当のマルだ。
「──勝者、マル!!」
その宣告に、会場は沸く。そしてそれを聞き届けた後、マルの身体はゆっくりと崩れ落ちていった。
「……そ、んな」
私の口からこぼれ落ちた声はまた震えていた。マルは勝ったのに、素直に喜べないのはこの嫌な予感のせいか。
アプリは敗北したことに悔しがりながらも何とか身体を起こして座り込んだ。リングに駆け上がったイウリスがアプリの身体を支える。
それを見て私はハッと我に返るとリングをよじ登り、マルに駆け寄った。
「マルさんっ!!」
彼の身体はあまりにも血に塗れていて、傷口がどこなのかも分からないほどだった。私はとにかく必死で両手をマルの身体にあてて治療をする。それも、私の不安は全く拭えず、むしろ更に膨らんでいくようだ。
「……ばぁか、泣いてんな」
微かな意識の中で、マルが小さく呟く。今まで聞いたことのないくらい弱々しい声だ。
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