第122話
この世界には自然のエネルギーを利用した魔術が戦闘に用いられることが多々あるのだ。炎、水、風など、自分に合う力を武器や技として戦闘に取り入れる。バトル漫画では定番の設定であるだろう。
第一試合ではデケンは自らの力を最大限引き出すことで武器とし、フェブルは妹のために培った薬や毒などの知識を戦いに取り入れていた。互いに自然のエネルギーを必要としない戦い方だったのは、きっと何か作者の思惑があったのかもしれない。
だがここからは──第二試合からは、全員が自然のエネルギーを使用しての戦いとなる。イェナは暗殺業でそれを使用する事は滅多にないため、私は今まで目の当たりにした事はなかった。この大会中、イウリスチームはもちろん使っていただろうが、私は落ち着いて観戦ができることが少なかったため彼らの技も実際に見た事はない。もちろん、紙面上では心躍らせながら見ていたものだ。
アプリは光を自らの武器に変えて戦うようだが──。私は思い出す。
──マルも同じくして“光”を操る術士であることを。
「そうか、そうだったな」
ニヤリと笑ったマルが取り出したのは愛用の銃だ。彼は光のエネルギーを弾にして戦う。
「お前も俺と同じ“光の術士”だもんなぁ!」
「一緒にしないでよ!」
声を上げて笑ったマルは心底面白いという顔だ。忌々しげに言葉を返したアプリは弓を構え、矢先をマルに向ける。
「──楽しませてくれよ?」
口角を上げ、マルも同じように銃口を相手へと向けた。
お互いモノは違うが飛び道具を使っている。それは互いの強みも──そして弱点も知っているということだ。
双方とも自然のエネルギーを具現化させているため、エネルギーを操る体力さえあれば弾や矢が不足することはない。
無数の矢と弾丸が会場内を飛び交う。アプリの矢はマルに致命傷を与えるほど命中率が良くない。そしてマルはそんな彼に合わせるかのようにわざと急所を外して楽しんでいる様子だ。相手が徐々に弱っていくのを見て、いたぶるのが好きなのは悪役の定石とも言えるだろう。
漫画の王道ストーリーを考えれば、きっとアロの試合はイウリスが勝つ。なんていったって主人公なのだから。そしてイェナが負けてしまう事は分かっているから──一回戦でデケンが負け、残りは二人。お互い2勝2敗でなければ最後の大将戦は行われる前に勝負が決まってしまう。それを踏まえれば……マルとフレヴァーは試合に勝つ。原作のストーリー通りならばそれは間違い無いだろう。
私がこの世界に来たことで少しずつ物語は変わった。だけど試合結果を覆すほどの影響力が私自身にあるとは思えない。大まかなストーリー展開は変わっていないはずだ。そうでなければ私の記憶はとっくに消え去っている。
そこまで考えが至って、少しだけ安心して息をついた──。
──が、それも束の間だった。
「うあ……っ」
アプリの肩に弾が命中し、血飛沫が舞う。マルも致命傷は負わずともダメージを全く受けていないわけではないようで、肩で息をしていた。
「……すぐに仲間んとこ送ってやるよ」
膝をついたアプリを見下ろし鼻で笑う。ゆっくりと歩み寄ると──その銃口を至近距離でアプリの額に向けた。
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