決勝戦(1)
第116話
今日は運命の日。
たくさんの参加者がいる中で、勝ったチーム、負けたチームが試合の数だけある。この大会で犠牲にしたものは少なくはなかっただろう。それも全て、この日を目指してきたからだ。たった二チームしか立てないその場所に今日、私の大切な人たちが立つ。それはとても誇らしく名誉あることだ。
私は息ができないほどの緊張感に包まれて、記憶があるうちで最後になるかもしれない婚約者の顔を見上げた。
「──ナツ、手出して」
そう言われて右手を出せば、違うと言われ左手を出し直した。
「これ、つけてて」
そっと手を取られて左手の薬指にはまったのは──。
「指輪?」
シンプルなデザインでゴールドの指輪には真ん中に小さな青藍の石が付いている。前にもらったペンダントと似た色味だった。
「あのペンダントより強力に作ってある。安物だから、婚約指輪にもならないだろうけど。ここにつけておきな」
この世界では左手の薬指に指輪をつけることにどんな意味があるのだろう。私がいた世界のような意味はあるのだろうか。
──でも右手ではなくわざわざ左手にしたということは、きっと意味があったのだ。それが私の知る意味ではなかったとしても、きっと素敵なことだろう。そう思わせてくれるほど彼の愛情が深いことは知っている。
「ありがとうございます……!」
今度こそ、大事にしようと思う。
この試合が終わった後──誰よりも大切なあなたが生きていられますように。
願わくは、記憶が無くなってもあなたの隣で生きていけますように。
今度は指輪に願いを込めて、私たちは会場の入場口へと足を進めた。
──ここは“オルフェンの塔”。
多くの犠牲を払って上り詰めた先にあるものは光か闇か。どのチームも辛く悲しい試練を乗り越え、時には敵チームと拳を交えて友情を育んできた。失ったものも得たものも決して少なくはないはずだ。それぞれの試合ごとに様々な思いとストーリーがある。だがそれも今日まで。この試合で全てが終わるのだ。
長いようにも短いようにも思えた武術大会“オルフェンの塔”の決勝戦が、始まる。
「──それでは、選手入場!!」
審判のアナウンスが会場に響く。暗い廊下を抜けて光へ向かって歩く。
アロはワクワクした顔で、デケンは難しい顔で、マルはムスッとした顔で、フレヴァーは鎧に顔を隠して、イェナはいつもの無表情で。薄らと思い出す、私が見慣れていたはずの──全員原作通りの顔。今はなんだか違和感を抱く。
イウリスたち主人公パーティーはどんな表情でこの時を待っていたのだったか。そもそも彼らはなんの目的があってこの大会に参加したんだったっけ?それすらももう思い出せない。
「──ナツ、オレから離れないでね」
何を思い出せなくても──私の使命はたった一つ。この命に替えても、この随分と人間らしくなった婚約者を守ることだ。
「はい、イェナ様も」
私の背中をポンと押して、歩き出したイェナの隣を進む。光の先には、同じようにリングを挟んで反対側の入場口から現れたイウリスチーム。ほんの数ヶ月前は彼らを応援していたというのに、今は真逆の立場になってしまった。
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