オルフェンの塔

直接対決

第100話


 武術大会“オルフェンの塔”準決勝前日、私の元に一通の手紙が届いた。


『ペンダントを返して欲しければ明日の準決勝開始時刻に闘技場裏に必ず一人で来ること』


 そう書かれていた手紙の送り主などすぐに分かった。ミルとロンに誘拐された時、奪われたあのペンダントはイェナから貰った大事なもの。イェナの過保護さが加速して本人に返してくれと掛け合う暇もなかったが──向こうから持ち掛けてくれるのは好都合だ。


 イェナにはペンダントを奪われたことは言っていない。もしかしたら気付いているのかもしれないが。何で言わなかったか、なんて……これ以上イェナに好意を寄せるミルに関わって欲しくなかったからだ。ただの嫉妬心である。


 だから今私は悩んでいた。明日の試合が始まってしまえば、抜け出して誰にも知られずにミルに会いに行く事は可能だろう。相手は女性だし、この大会でも二回戦目で呆気なく敗れたモブチーム。なんとかなるのでは、という思いが強い。イェナにこのことを打ち明ければ絶対に面倒なことになるのは分かり切っていた。


 私は手紙をぐしゃっと握り潰して──決心した。








「──ちゃんと一人で来たのね」

 闘技場の裏、崖の上でミルと対峙する私は彼女を睨みつけた。準決勝はもうすでに始まっているため、闘技場からは大きな歓声が聞こえてくる。アロチームにとっては今回も容易く倒せる相手のはずだ。

「……ミルさん、ペンダントを返してください」

 手を出して要求すれば、彼女は眉間にシワを寄せて舌打ちをする。これが本性なのだろう。イェナには決して見せない顔だ。


「うるさいわね、ほら」

 ミルが差し出すペンダントを受け取るために一歩ずつ前へ進む。正直、恐怖で足は震えている。でも……彼女を下手に刺激しないように素直に従った。

「……ありがとうございます」


 手の届く範囲まで来ると素早く受け取ろうとして──ミルがサッとペンダントを持つ手を引いた。

「──え」

 そのまま強く身体を押されてガクンと膝が崩れる。目の前に広がる森林にサッと血の気が引いた。足元を動かしても宙をかき分けるだけ。浮遊感を感じて一瞬後には勢いよく降下した。


 ──そう、私は高い崖の上から突き落とされたのだ。


「忠告はしたのにね?──バイバイ」

 叫ぼうにも声が喉に張り付いて出てこない。最後に目の端に見えたミルがおぞましく笑っている姿。それが消えたと同時に目をギュッと瞑って覚悟を決めた。




 まるでジェットコースターが急降下するときのような、お腹がキュルキュルする感覚に泣きそうになる。そろそろ地面に着くんじゃないか──なんて悠長なことを考えていると、ドスッと硬い筋肉に受け止められて、そっと目を開ける。


「デケンさん!!」


 にっこりと笑う強面の男──デケンが空中で私の体をしっかりと抱きとめてくれている。

「よく頑張ったなあ」

「はい……!!」

 崖を蹴り上げ空中に飛んだデケンが私を抱きとめて助けてくれたらしい。そしてそのまま彼は軌道を変えると近くの湖に二人で落下した。

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