第17話

 

 時にジャムやロールを交えながらアンとのお茶会を終え、自分の仕事へと戻る。私が主に任せられているのは屋敷内の掃除。掃き掃除や拭き掃除、庭のお手入れなど、屋敷内は広いから時間はかかるが毎日清潔にしていると掃除もあまり苦ではない。


「──あ、イェナ様が帰ってこられた」


 庭の掃き掃除をしていると、イェナの気配が近づいてきているのが分かって慌てて箒を放り投げ、玄関前へと向かった。



「お帰りなさいませ、イェナ様!」

「うん、ただいま」


 一礼して顔をあげれば、イェナがこちらをジッと見ている。


「なんでいつも、オレが帰ってきたらいるの?まるで分かってるみたいに」

 コテンと首を傾げた。その仕草はやっぱり愛らしいのだけど、彼の疑問に何と答えるべきか。


「……分かりますから」

「何が?」


「イェナ様の気配は、すぐに分かるんです。どうしてなのかは私にも分かりませんけど」


 この何が起きても不思議じゃない世界で、気配を探る能力くらいは特に珍しくはないだろう。イェナの反応も特に大きくはなかった。


「ふうん、オレ以外もわかるの?」

「分かるわけないじゃないですか!激弱ですよ!?」

「当たり前みたいに言わないでよ」


 きっとこれは神様がくれたなけなしの同情……なのかもしれない。チートな能力はくれなかったけれど、その代わりに名前も付けられない能力を授けてくれたのか。


「愛の力ですね、きっと」

「……馬鹿じゃないの」


 私の冗談に一瞬間が空いたけれど、今度は「殺すよ?」とは言わなかった。これは大きな一歩ではないだろうか。



「着替えてくる」

「はい、夕食の用意をしておきますね」


 最後にもう一度礼をして、イェナの背中を見送った。




  庭に放り出していた箒を片付けて執事室に戻ると、アンが調理場から出てくる。


「ナツ、夕食が出来たから運んでもらえる?」

「はい」

 食器を準備していると、執事室の扉が開いた。そこから顔を覗かせたのは先ほど見送ったはずの主。


「あらイェナ様、どうなさいました?」

 アンが驚いたように目を丸くする。


「ナツいる?」

「あらまあまあ!」


 やはり執事室に顔を出すイェナは珍百景なのだろう。彼に呼ばれたから慌てて私もアンの隣に並んだ。


「ああ、アンに会ったんだ」

 私とアンを交互に見て、「よかったね」と棒読みで言った。


「はい、とても素敵な方ですね」

「変じゃない?」

「そうですか?イェナ様ほどじゃないですよ」


「殺すよ?」

「だめです」

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