第14話
「アンさんは、どんな方なんですか?」
イェナが先ほど出した名前。ロールやジャムからもよく名前は聞くのだが、実際にその人を見たことはない。もちろん、作中でも。
「アンはとにかく変な奴だよ。馬鹿力だし。……でも大丈夫。アンは多分、ナツのことすごく気に入ると思う」
「そう、なんでしょうか……」
想像上で膨らんでいくアンという名の執事の姿。可愛らしいイメージの名前に反して大柄の男なのだろうか。イェナに“変”と言わしめるのだから、相当変わった人なのだろう。
「アンは執事長だから、信頼していい」
悶々と考えて不安になる私を見て、安心させるようにポンと頭に手を置いた。この人が“大丈夫”だと言うのなら、きっと大丈夫なのだろう──なんて。きっと傍から見ればおかしいと笑われてしまうのではないだろうか。
「仕事は大変?」
「いえ、楽しいですよ。でも私は侵入者に会ってもやられちゃうのがオチだと思うので……戦闘も、ジャムさんに少し習ってみます」
人を攻撃なんて今までしたことがないから怖い。痛い思いもしたくはない。だけど、この世界で生きていくためには弱いままではいられないと思うのだ。
それに修行すればチート能力も目覚めるかもしれない。自分の体力には自信など皆無だが、これに関してはまだ諦めていない。
「……いらないんじゃない」
突き放すような言葉かもしれない。だが、それは冷たくなんてなかった。イェナは弱いままでいいと言うのだ。
「マヴロス家の使用人なのに、激弱なんて……」
いつか捨てられてしまったら──と考えれば恐ろしくなった。この家に来て、優しくされたことしかないから忘れかけていたが、この人たちは暗殺者。不要なものは容赦なく切り捨ててきたのだ。
「ナツは激弱でもいいよ」
そんな心配は、すぐに払拭できた。
「──オレが守るし」
イェナの言葉が胸の奥にズシンと響く。温かい何かが灯ったような安心感が満ちて、頬が緩んだ。
「イェナ様イケメンすぎる!!尊い!」
「何言ってるの?」
頭に置かれたイェナの手にチョップされて脳震盪を起こしそうになった私に、主は「やっぱり少しは鍛錬した方がいいんじゃない」と呆れていた。
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