第12話



「……別にしたいと思ってないよ、そんな貧相な身体。欲情しない」

 怯える私を見てはぁ……とため息をついたイェナ。その言葉には地味に傷ついたけれど。


「グラマラスボディがお好みなのですね……」

「そんなこと言ってない」


 また彼の目が “殺すよ?”と言っているように見えた。

 やはり彼の好みは一向に見えてこない。先ほどは「女に興味ない」と言っていたのだ。今までの女性遍歴が気になるところではある。


 ベッドに腰掛けて、脚を組んだイェナがボソッと呟いた。


「……“その時”が来るまでに心の準備くらい、しといてよね」

「はぇぇぇぇ!?」


「変な声。そんな声で啼いたら萎えるからやめてよ」

「が、がんばりますう……?」


 イェナの女性に対する好みは一切わからないが、恋人や夫婦が行う営みのことは理解しているし、私としたくないわけではないようだ。

 きっと跡継ぎが必要になれば、誰とでもできるのだろう。自分に利益があれば何でもできる彼らしい。



 そんなことを考えていると、ふと思い出す。


「──それでイェナ様……ご用件は?」

 仕事まで時間があるから私は呼ばれたはずだ。一向に本題を切り出さないイェナに話を振ってみれば少し間があって

「え?」

「え?」

 首を傾げられたので、同じ向きで私も首を傾げ返す。「何言ってるの?」と言わんばかりの雰囲気を醸し出すが、私の聞き間違いだったのだろうか。


「お仕事の前に、何か御用があって呼んだのでは……?」

「いや、特にないよ」


 キッパリ言い放った彼になぜかと問えばまた首を捻る。


「なんとなく──なんとなく、ナツを探してた」

「イェナ様……」


 いつも深い黒に染め、感情のこもっていない瞳を向けていた彼。なんだかとても人間らしくて、笑ってしまった。

 

 ……なんだ、やっぱりただ怖い人じゃないんだ、と。


「私のこと大好きじゃないですか」

「舐めてるの?殺そうか?」


「すみませんでした」


 イェナの「殺すよ?」が冗談の一種であることは少しずつ分かってはきたが、やはり怖いものは怖い。もう少し表情を出せばいいのに、とは思うが、彼が生きてきた環境がそうさせているのだろうと思えば少し同情した。


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