文化祭☆ よくやった
——少しだけ、変更、いいか?
クラスメイト全員が揃った舞台袖。俺は告げた。
「それにしても、せいらちゃんが裁縫できたなんてね」
体育館後方で、俺は春野と演劇を鑑賞していた。あ、岡村さんが登場した。
「ああ……未だに信じられないな」
神谷は、ボツになった衣装を完成させていた。独特な縫い目だったが、縫うべきところを指示通りに完璧にこなし、かつ、その独創性をもってアレンジしていた。
そう、アレンジ。
「最大の難関だったな……」
澤平の飛び降り未遂より頭を使った。
紙袋から取り出した衣装には、羽やらビーズやらどこに繋がってんのか謎な布やらがくっついており、それはもうどこの民族衣装でも着ないというくらいセンスが悪かった。おまけにギッチリ縫われ、それこそ取り外すとなると午後が潰れるほどだった。
『めでたしめでたし! これでみんな文化祭楽しめるね』
ひとり『でかした』顔をしている彼女に、誰ももう文句を言う気力は残っていなかった。
よって放置したまま村上に着せたわけだが。
「ほら、桃太郎が来たぞ」
どっと会場が笑いに包まれた。村上は赤面している。
どれだけ暴力を振るおうが酷いセリフを吐こうが、着ているものが見事に彼の人格を裏切っていた。
「さて、みんな上手くやってくれよ」
桃太郎が鬼を倒して高笑いをする。リハーサルではこれで閉幕だったが。
神谷の、ふふ、と笑う声が聞こえた気がした。
*****
「ちょぉっと待ったあ!」
人影が、降ってきた。
観客席からどよめきが起こる。
ダンッと村上の前に着地した神谷は、声を張り上げた。
「真の桃太郎はここにあり! これより鬼を成敗する!」
そして村上に刀を向ける。あれ、よく見たら定規だ。
「ふ、ふざけるな! 俺が桃太郎だ!」
「桃へお帰り!」
問答無用で斬りかかる。
「とぉ!」
が、途中で放り捨て、結局蹴った。もちろん蹴ったフリだ。
「あーれー!」
村上が飛んでいって舞台袖に引っ込む。なんちゅー寒い演技なんだ。
まぁしかし、よくやってくれた。
「悪人はこの神谷せいらが……あ、本物の桃太郎が! やっつけて、……とりあえず、『日本一』‼︎」
ん?
力強く拳と一緒に突き上げたのは、背負っていた旗。
『天下一品』
「……なんでだよ」
誰かが吹き出した。
それを皮切りに、笑いの混ざる拍手が起きた。わぁっと歓声が飛び交う。
バッドエンドがコメディーになったが、俺たちらしい締めくくりだと思う。
春野と顔を見合わせる。
「ははっ」
幕が降りていく。神谷が嬉しそうに宙返りをしていた。
「お疲れ様」
俺たちの、長い文化祭が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます