文化祭☆ 約束
気まぐれ、としか言いようがない。普段スケジュールに組み込まれていない学校に行けば、少しは刺激があるかもと、ただそれだけだった。
「おはよう良い朝だねはじめましてあたしせいら、君の名前は?」
新種の生物に出会った。
名前も顔も知らなかったが、こいつが噂の変人だと、すぐに理解した。なんたって最速記録で噂になった人物だ。両の手で数えられるほどしか出席していない自分でも、入学早々校長室に忍び込んだアホの話はさすがに耳に入っている。
「澤平……斗真」
「斗真、早速なんだけどあたしと遊ばない?」
「あそ……なに?」
そうして突然現れた自分のもとに神谷せいらは突然現れ、毎休み時間付け回されるはめになった。
はじめこそ興味があったものの、四時間目を過ぎたあたりでもうへとへとだった。
なぜみんな同情の視線をよこすのか。それが分かったところで、帰ることにした。
だけどその日は、突然変異としか思えない奴だけが収穫ではなかった。
文化祭、か。
学校中その話題で持ちきりだ。どうやら桃太郎を演じるらしい。
イベント行事は嫌いだ。自分はいっこうに楽しいと感じることがないのに、周りは盛り上がる。全校生徒のみなさん折り鶴を折りましょう、と言われて、ひゃっほう折るの楽しみ! となるだろうか。ならない。
学校からの手紙なんて読まないから、文化祭の存在をトンと忘れていた。嫌な時期に来てしまったと後悔する。
気分がささくれ立ってくる。
「……ぶっ壊してやろうか」
呟きは誰にも聞かれることはない。
しかし言ってから、ほんとにそうしようかと考えた。でもそんなことしたらただでは済まない。それでもいい?
自分にとってこの世界は、現実に娯楽がなさすぎる。
だって中学最後の文化祭なんでしょう? このまま流されて終わりにするもしないも自分次第。この学校で行動を起こすならただひとり、自分だけ。待てど暮らせど来ないものは、自分で作って掴むしかない。
なら、やってみようか。
帰宅途中のつま先は、気づけば学校を向いていた。
五時間目終了のチャイムが鳴って。
校門を再びくぐったら、「ねぇ」と声が降ってきた。
銅像の肩に腰掛けるというあり得ないことをするのは奴だけだ。
ぴょんと飛び降りると、謎の生命体は言った。
「今日の放課後、放送室前に集合ね。遊ぼう」
「却下」
とすぐに返事をしそうになって、待てよ、と思いとどまる。
こいつ、隣のクラスだよね……。
それに放送室には、演劇で使うだろう機材があるはずだ。
三秒のち、「いいよ」と頷く。
使えるものは使う主義だ。
さて、放送室にて奴と対峙した。
しかしその前に疑問を解決したい。
「あんた、なんでオレに付き纏うの。今まで接点なんて無かったよね」
「え? 友達とは遊ぶものでしょ?」
「いつ友達になったのかって聞いてんの」
「友達ってのはある時点からなるものじゃないよ」
「話通じないなぁ……!」
こいつはダメかもしれない。使おうとしたことが間違いのような気がしてきた。
でもこいつがいる前で犯行は起こせない。なんとか共犯にしたい。
「ねぇ。友達は友達でも、盟友って知ってる?」
「固い約束を結んだ仲」
「そう。ところであんた、口は堅い?」
「あたしは約束したことは絶対守るよ」
「そっか。で、オレたちさ、」
悪い笑みにならないように。うわべだけは友好的に。
「盟友にならない?」
そうして、右手を差し出す。
その手を神谷せいらは数秒見つめたあと、「じゃあ」と言った。
「盟友になれば遊んでくれる?」
交換条件か。やむを得まい。
「いいよ。オレと遊ぼう」
すると、布に水が染みていくように、奴の顔にじんわり笑みが広がった。
約束したことは三つ。——自分が放送室に来たことは誰にも言わないこと。鍵は変人が借りて、返却すること。CDを割ったのは神谷せいらだって証言すること。
これでいい。二組のを割ることで、この事件を自分のクラスの生徒は気に留めることもない。二組が意図的に割られたのではと勘繰っても、真相にはたどり着かない。不思議人間が盾となる。
さぁこれであとはボロが出ないように家に居続けるだけだ。——文化祭まで。
これは前菜にすぎない。メインはお祭り当日だ。
自分の命を賭けた勝負。何もなく飛び降りるか、それとも。
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