帰り

 西日がきつくなってきた。段々と昼が短くなり、木々の葉も変色してきている。空気の湿気もとれ、過ごしやすい日がここ二、三日続いていた。


 今週の日曜日が、神谷の言っていたお茶会とやらの日だ。俺は絶対にこの日は海に行く。たとえ泳げなくても行く。独りで貝殻拾いしかできなくても行く。神谷がいないなら素晴らしい時間を過ごせるだろう。

 

 しかし、その前にまず演劇のリハーサルだ。実際に体育館で、とどこおりなく発表ができるかどうかを試す。

 俺らのクラスは、正直言って、かなりクオリティ高めだと思う。衣装も、中学生にしては本格的だし、放送部の子がいるおかげで機材に戸惑ることもない。さらに岡村さんは演劇部だし、春野も実行委員としていろんなことを取りまとめてくれている。

 十分に優勝を狙える作品に仕上がった。


「渡辺くん、お疲れ様」

「お疲れ様」

 春野がまたね、と手を振ったので、俺も応えた。

 手首を回して教室の鍵をガチャリと閉める。俺は職員室に鍵を返そうと、踵を返した。

「ねぇ、陽介」

「どぅわっ!」

 し……心臓が飛び出るかと思った。お前、いたのかよ。

「……なんなんだよ。そして傘立ては座るとこじゃねーぞ」

「知ってる? 今日ね、隣のクラスの……えーっと、なんとか斗真とうまって子、澤田斗真だっけ? 澤崎だったかな……北澤? 澤……なに澤だ? 黒澤、澤村、澤野……」

「ぁああああ! もうわかった! で? そいつがどうした⁉︎」

「今日学校来てたよ」

「………………」

 へーーーーーー。そりゃビックリだー。ほんと、オドロイタヨー。

「……だから?」

「へ? いや、珍しくない? だって半年前に来たっきりだよ? 来てなさすぎて退学になりそうらしい」

 ふーん。なんで学校来てない他クラスの奴なんて知ってるの?

「で、久しぶりだったから遊びに行ったらさぁ」

「え、お前、友達だったの?」

「いや? 初めてしゃべった仲だけど?」

 ……突っ込まないでおこう。きりがないので。


 それから神谷は、そのなんとか斗真とやらに挨拶した瞬間チャイムが鳴ったこと、他の休み時間に訪ねても、居なかったこと、終いには早退されてしまったことをつらつら話した。

 もう、めっちゃどーでもいー‼︎ そして絶対そいつが早退したのお前のせいな!

 俺は適当に相槌あいづちを打ちながら、階段を降り、職員室に鍵を返却した。というか、何故こいつはついてくるんだ? 帰れよ。

「え? だって放送室に用事あるから」

 放送室は、一階の職員室の隣にある。今は、劇に使う機材などをそこに置かせてもらっているのだ。

 俺はじとっと神谷を睨んだ。

「壊すなよ」

「いやいや、中には入らないから」

 ……? 放送室に用があるのに、中には入らない?

 疑問に思ったが、こいつに関してはいつものことなので、俺は「あっそ」で済ましてしまった。

 


 その後、とんでもないことになるなんて、夢にも思わずに。

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