第11話 裏切り

早苗を殺害した後の罪星合歓つみほしねむの表情は笑顔で満ちていた。

合歓は誰もいないことを確認し、スマートフォンを取り出す。


「もしもし、私です。合歓です。義母様おかあさま。」


義母様と呼んだ人物に対して電話越しだが

礼儀正しくお辞儀をしてみせる。


『合歓か、どうした?』


「『傲慢』を毒殺しました。

これで三人です、どうなさいますか?」


『続けるに決まっているだろう?』


「了解です、また成果を上げ次第ご報告いたします。」


最後まで丁寧に話し電話を切る。

また周りに誰もいないことを確認して悲鳴を

あげる。


「きゃぁぁぁぁ!サナサナ、死なないで」


みんなに聞こえるように大きな声で。

その場で腰が抜けたフリをして。


「どうした!?合歓」


「キョウちゃん、サナサナが...」


強花の問いに泣きそうな声で訴えかける合歓に恋音が駆け寄る。


「何があったのです?」


「私が...殺しちゃったの。

サナサナとちょっとした口論になっちゃって、その勢いで。」


「その割には外傷少なくねぇか?」


「サナサナがレンレンの部屋から奪ってた

毒を針で私を刺そうとして、それを奪ったら

たまたま刺さっちゃって、毒が回って。」


「たしかに、私の毒針の刺し跡ですね」


「なるほどな、炎はどう思う?」


「もう、誰も疑いたくないです。

合歓さんは自分の殺人を話してくれた。

これ以上、悪気のなかった合歓さんを責めたくありません。殺害された皆さんのためにも

これ以上の殺人を生まないと全員で誓いましょう。」


「そう、ですね。」


「誰も殺した気はないが、全員の前で誓えば殺そうとしても多少人間としての心が揺らぐだろ」


「合歓さんも、お願いできますか?」


「合歓?」


「合歓ちゃん?」


「ご、ごめんね!ちょっとお腹痛くてぼーっとしちゃった!」


「大丈夫か?」


「お手洗い、行って来ますか?

無理は良くありません」


合歓は辻褄の合わないことを嫌う。

言ったことは守ると誓っている。

だから、ここで誰も殺さないと全員の前で宣言できるわけがなかった。

既に義母から全員を殺せと指示が出ている。

強花を乗っ取って惟呂羽を殺した時点で

後戻りなんて出来ないとわかっていた。

けれど...





トイレへ行くと偽り数十分、炎達の元へ戻るつもりなんて無かった。

自分の部屋で作戦をノートに書き、それを

誰にもバレないように鍵の付いた引き出しにしまう。


コンコン


扉を叩く音がした。誰かが殺しに来た?

いや、違う。さっきの馬鹿みたいな同盟の話に

みんな乗り気だったのだ。

いきなり気が変わったなんて合歓の能力を使わない限りありえない。


「合歓ちゃん、いますよね?」


恋音の声だ。少し低めの落ち着いた大人の声。今回の参加者の最年長の余裕を感じる。

合歓は沈黙を貫こうと思った。

でも、貫けない理由ができた。


「合歓ちゃん、いいえ、合歓。

貴方は私、愛望恋音あいはれんの妹、愛望合歓あいはねむですね?」


「なんのこと...言ってるの?」


「似てると思っていましたよ。出会った時から。貴方の青紫色の髪も、群青色の瞳も、

何より、そのリボン。」


そう、合歓は耳の左上側に黒いリボンを付けている。その真ん中にはダイヤの様な飾りが付けてあって特徴的だ。


「こんなリボン、どこにでもあるでしょ?」


「いいえ、そのリボンは私が貴方にプレゼントしたものですよ。貴方は、知らないかもしれないけれど。

でもどうして貴方が能力を?」


「...」


「だって貴方は...」










恋音は断言した。


「無能力者。ただの人間。一般人なのに」

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