第12話 秘密厳守義務

「一般人である合歓がどうしてここに...」


「はぁ、バレちゃったか。

ってか、これに関しては隠し通すのは無理だってわかってる。

でも、私のことは殺さないでしょ?

殺せないの方が正しいねぇ!

レンレン優しいから〜ってやーつ?」


「いつからそんな風になってしまったの」


「ずーっとかな〜!生きるのめんどいって思い始めた時から」


合歓は迷惑そうな顔をしながら恋音の言葉を上手く流す。

けれど恋音は引かない。


「私さ、ずーっとレンレン嫌いだったよ?

私のこと無能力者で元妹だって知ってから

見下してた?自分が能力者だからって!

義母様が言ってた!

『嫉妬』の才能は合歓の方があったんじゃないかって!

でも、私には才能がなかった...」


合歓は諦めたように続け、部屋の扉を開けると槍を構えた。


「私と同様、合歓も私を殺せない」


「できるよ。私はお人好しじゃない」


大きく槍を振りかぶった合歓を見て恋音は

命の危機を感じたらしい。

槍が当たるか当たらないかのタイミングで

左に跳んで避ける。


「へぇ、やるじゃん。

この距離の武器避けるって普通じゃない」


「聞いて!貴方は...!」


「やだ聞かない!『幻想』!」


恋音の意識を乗っ取ろうとしたが辞めた。

ただ一つ、恐れたことがあったからだ。


「私は...貴方のせいで愛してもらえなかった

そんな人の気持ちが!恵まれている恋音に

理解できる!?

誰にも相手にしてもらえない妹の気持ちを

少しでも考えたことがある!?」


「...っ。」


合歓の質問が恋音の心を突き刺した。

心だけで無く、突き刺された。

合歓の槍に胃の辺りを。


「かはっ...」


力の抜けて行く体を精一杯に動かして

恋音は合歓を抱き締めた。

刺されたところに偶然合歓の手が当たり

激痛が恋音を襲う。


「ちょ...」


「合歓は愛されていなかったんじゃない、

愛が故に私たちは貴方を遠ざけた...。」


「どういう意味...?」


合歓は手を下ろして恋音を見上げる。

そこには口から血を垂らした姉が

涙を浮かべて合歓を見つめていた。


今なら所持している毒針で姉を刺すことは容易い。でもそうしてしまったら...。


「合歓...貴方がそうなってしまったのがもし

私たちの愛に関するものだったとしたら、

全てを話すから...。だから...。

遠くに行かないで」


痛む傷口を手で塞ぎ、息を荒くしながら

訴えかける。


「...わ、たしは。」


この時の合歓は色々な感情に支配されていた。先程恐れていたことがすぐ近くまで迫っている。もしも恋音の意識を乗っ取って、

自分との楽しい記憶でも残っていたら

きっと合歓は壊れてしまう。

今まで恋音への恨みや妬みだけのために

『運営』の一員として人を三人も殺したのに

その恋音とのわだかまりが無くなってしまったら合歓が重ねていた罪が全て無駄になる。


それが何より怖かったし、嫌だった。


姉妹喧嘩に他の五人を巻き込んだことは悪いと思っているが、主催者は合歓ではない。

主催者一味なだけだ。

主催者である『運営』のトップ、合歓の義母となっている人物の言いなりでここに来て

指示に従って殺しただけなのだと惟呂羽を殺害した時から自分に言い訳をし続けていた。


非情なフリをしていても結局はただの一般人なのだ。

恋音が言っていた通り、恋音のことを殺さない。殺せるはずがない。


合歓が考えを整理し終わったころ、

恋音が口を開いた。




「私はね...一回、合歓を殺した」

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