Blue Sky Blue
「無理に忘れなくてもイイよ」
…本当に?イイの?あたしにとってあの人は、決して忘れることの出来ない大切な存在。それでもイイのかな?
「空海じゃなきゃダメなんだ」
……あたしでイイの?こんな……こんなどうしようもないあたしでイイの?
「好きだよ…」
……ありがとう……愛してくれて。
愛する喜びを教えてくれた人。
愛される幸せを教えてくれた人。
どちらも大切で、どちらも同じくらい愛しくて。……どちらも失いたくなかった。
青い。
見上げると、雲一つない空が広がっていて。
あぁ……懐かしいな……
昔居た所は、空が青くて高かった。ここよりもずっとずっと深い青で、もっともっと高かった。そんな気がするのは、隣に央さんが居たからなのかもしれない。
コンコン
ノックの音に振り返ると、柔らかい微笑みにぶつかる。
「今大丈夫かな?」
耳触りの良い優しい声。
「ん……平気だよ」
あたしも微笑んで、窓辺を離れる。
「……今日の空……
蛍は教員控え室の椅子に座りながら呟く。
春宮ーー
この町でその名前を知っている人は少ない。
あたしと
「……後悔……してないか?」
見つめる瞳は酷く優しくて、だからこそ痛い。
でも、その瞳から目を逸らす事はあたしのしてきたことを否定してしまうようで……
「してないよ…後悔なんて…」
そう……あの街を離れたことに後悔なんてない。あのままあの街に居ても、あたしはきっと前に進めなかったと思うから。
でも……あの街で過ごした時間は、忘れてしまうには大切過ぎて……あたしのナカに残っている。
「天気も良いし、外で一緒に昼ご飯でもどうかな?」
言いながら蛍は、手に持ったランチボックスを目の高さまで持ち上げる。
「サンドイッチ。好きだろ?」
覗うような瞳に、あたしは笑顔を返す。
「ん。一緒に食べよう」
二人で並んで歩き、途中にある自動販売機で飲み物を買い、建物の裏手に出る。裏の公園にある大きな木の木陰があたしのお気に入りの場所だ。木の根元に座って見上げれば青い空が広がっている。それでいて日の光は柔らかい。
一瞬、ここが
蛍と並んで座り、取り留めの無い話をしながらランチを食べる。
蛍と過ごす時間は酷くゆっくりと過ぎていき、心地良い。
触れる温もりは優しく、握られる力は強い。
それは央さんのモノとは違う…けれども、同じくらいに愛しくて、大切で……
決して失いたくないーーと、強く思う。
遠くから聞こえる子ども達の声に、あたしはここが何処かを思い出す。
「そろそろ戻ろうか…」
「そうだな…」
陽の下に出ると、その眩しさに目が眩む。
手を引かれ、振り返る。
「好きだ」
光の中に居るあたしから、木陰に居る蛍の表情は見えない。でも、蛍の声は酷く真剣で、あたしのナカに深く突き刺さる。
だから、あたしも精一杯の想いを込めて答える。
「好きだよ」
嘘でも何でもなく、心からそう想う。
好きだよ、蛍。
蛍は静かに立ち上がり、強くあたしを抱き締める。ーー強く。
あたしは蛍の肩に頭を預け、小さく呟く。
「好きだよ……」
あたしの精一杯の想いを込めた、精一杯の言葉。
温かい手が優しくあたしの頭を撫でる。
ありがとう……こんなあたしを愛してくれて。こんな…弱いあたしを大切にしてくれて…ありがとう。
好きだよ。上手く言葉に出来ないけれど、この想いがキミに届いていればイイと思う。
大切なキミにーー
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