Rainy Blue
パラパラパラパラパラ……
傘に落ちる雨粒が、軽い音を立てている。街はまだ夜と言うには早い時間にも関わらず、空を覆う厚い雨雲の所為で暗い。
あたしは着物が濡れない様に裾を片手で
隣を歩く
雨の
そんなわけないのに。央さんの心にはやっぱり
……それでも、あたしの中で央さんの占める割合は大きくて、やっぱりあたしにとって央さんが大切な存在であることには変わりない。
「……
静かな…そして、優しい央さんの声。
「……ん?」
「今、幸せか?」
幸せーー…今?
浮かんでくるのは、瞳にあたしを移した柔らかい微笑み。胸の奥がほわっと温かくなって、愛しさが沸いてくる。
「……幸せですよ」
あたしは、小さく呟く。
「そっか」
表情をはっきりと読むことは出来なかったけれど、央さんの口元は、緩く微笑んでいた気がした。
夜。中庭に面した縁側の障子を開け広げ、あたしは薄桃色の
「好きですよね?」
「ん?何が?」
あたしは、柔らかい央さんの髪の感触を楽しみながら言う。
「膝枕」
猫の様に、気持ち良さそうに目を閉じていた央さんが目を開け、上目遣いにあたしを見る。
「近いから…」
ーー人に…その温もりに近いから好きだ。
「そっか」
目が離せなくなる。あたしをじっと見る瞳に囚われて、魅せられて、引き寄せられる。
近付いてくる瞳に、何もかも見透かされている様な気がして。口唇に触れた温もりが痛くて、目を閉じる。
「……泣くなよ…」
そっと頬を拭われ、目を開くと、少し困った様に微笑んだ央さんの瞳にあたしが映っている。…涙で、潤んだ瞳が。
あたしらしくなくて、情けなくて、でも、愛しさと一緒に溢れてくる涙は止められなくて…
この一瞬だけは…嘘でもイイから、あたしだけを見てほしい…あたしの事だけを考えていてほしい…そう、願ってしまう。
触れた素肌は熱くて、触れる指先はもっと熱かった。
「綺麗だな…」
央さんの呟きにあたしは小さく苦笑して、緩く首を振る。
「央さんの方が綺麗だよ」
「綺麗って…男に言う台詞じゃないだろ」
苦笑いを浮かべた央さんは、あたしの首筋に口唇を落とす。
実際、あたしは央さんを綺麗だと思う。ろくな運動もして無いくせに、引き締まった綺麗な筋肉付いた細身の身体。何気ない仕草も妙にサマになってて…。外見がというよりも中身が格好イイ…とあたしは思う。…実際、央さんは他の店の娘にも凄く人気があるし。
でも…そんな央さんの心を射止めたのは…
「別のこと考えてる」
央さんが小さく呟き、あたしは小さく苦笑しながら央さんを引き寄せ、軽く口付ける。
「ごめんなさい」
小さく囁くと、柔らかく微笑んだ央さんはあたしの口唇に触れ、キスをする。触れるだけのキスは、次第に深くなり、あたしの胸も痛くなる。
好きでした。
大好きでした。
ーー誰よりも、愛していました。
決して、口に出すことの出来なかった想い。それが、溢れてしまいそうで、離れてしまうのが怖かった。
「ん…」
離れていく愛しい温もりが名残惜しくて目を開くと、柔らかい微笑を浮かべた央さんにぶつかる。そんな央さんは、綺麗で、格好良くて、あたしは頬が熱くなるのを感じる。
「可愛い…」
耳元で囁く央さんの声がくすぐったくて、あたしは身を竦める。
触れる指先から愛しさが溢れていく。
触れられる温もりに涙が溢れそうになる。
もう…二度と触れることのない温もり…
眠る央さんは、まるで小さな子どもの様だと思う。そんな央さんの頬に軽くキスをして小さく呟く。
「大好きでした」
誰よりも――愛していました。
口にすることの許されなかった想い。それが今、初めて形となる。もう…二度と形になることのない想い。
ありがとうございました。
あたしは、いつまでも貴方を想っています。大切な…大切な貴方のことを。
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