Blue Night

 静かな夜。隣に眠る愛する人の寝顔を見つめる。

 意外なほど長い睫毛まつげ、すっと通った鼻筋、形のイイ唇。その全てを、愛しいと思う。少し高めの体温、あたしの体を抱く腕の力強さ……全てが……愛し過ぎて、切なくて、苦しくて。

 あたしは声を殺して泣いた。

 こんなにも近くに居るのに、手を伸ばしても届かないほど遠くにいて。

 触れたいと思っても、触れる事は出来なくて。

『好きです』

 ………

『愛してます』


 薄い障子を通して感じる柔らかい光に、あたしは朝が来たことを知る。

 体を抱く腕は、眠る前と変わらず力強い。

 少し肌寒い朝に、なかばさんの体温は酷く心地よかった。

 隣に居る幸せ。

 これまでの人生の中で感じたことのない、幸福な思い。

 眠い目を擦りながら見上げると、央さんの優しい笑顔にぶつかった。

「おはよう…」

 柔らかい微笑みと、優しい声。優しい手つきで髪をかれ、まぶたに軽いキスが落ちる。

「……おはようございます」

「ーー泣いたのか?目が赤い…」

 央さんはあたしの目の縁をそっと指でなぞり、少し……ほんの少しだけ寂しそうに笑む。

 あたしは嘘を吐く事は出来ず、でも正直に言う事も出来なくて曖昧に笑んだ。

 ……困らせてごめんなさい。

 央さんにこんな顔をさせているのは、自分なんだと思うと泣けてくる。

 ごめんなさい……

 唐突に抱きしめられる。

 強く。

 央さんの胸に顔を埋めてあたしは思う。

 一生……この想いを口にしたりはしない。他の誰かのことを想っていても構わない。

 ただ……願うのは……

 せめてこのままの二人で居させて欲しい……。

 あたしから……この場所を奪わないでーー

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