第15話戦闘(ナギパーティー対ゴブリンパーティー)

 ゴブリンと冒険者、2組による戦闘が開始されようとしていた。

 ゴブリン側      冒険者側

 ゴブリン斥候     フランク重装戦士

 ゴブリン剣士     ノア  軽装剣士

 ゴブリン弓手     ナギ  魔術師 






 マトモな索敵をしていなかったナギ、ノア、フランクの3人ではあったが、前方からゴブリンが現れたなら流石は冒険者と言うべきなのか。すぐさま戦闘態勢をとり、前方から現れたゴブリンを倒そうとした。


 しかしゴブリンが「オレに敵意は無い、話し合いをしたい」と言い、剣を地面に刺し戦闘の意思が無いく対話を求めている事を示した。

 冒険者が何もしない、もしくは対話が出来る相手なら手は出さない。もし襲ってくるのであれば戦うのみ、そう言う態度を取った。


 ナギたちは奇怪な行動をとるゴブリンを訝しんだが。彼女らの国と教会においてゴブリンとは、『最弱の亜人』『必ず殺すべき強姦魔』と言う教えがあり、「敵意が無い」と言う言葉もコチラの油断を誘う為の嘘であると判断した。


 そうと決まれば話は早い。冒険者とは人類の脅威を倒す事が仕事だ‼︎

 わざわざ目の前に来てくれた哀れな亜人を倒そうでは無いか‼︎

 そう思い、3人は改めて武器を構え直す。


 それを見ていたゴブリン剣士は「残念だ」とだけ告げ、地面に刺した剣を抜き構え直し雄叫びを上げた。こうしてゴブリンと冒険者の戦いが始まった。






 「ノア‼︎フランク‼︎普段通りにいくわよ‼︎」

 そんなナギの号令に2人は「「はい」」と応える。


 フランクが1番前で盾を構え、攻撃を防ぎつつ、槍で敵の動きを止め牽制。

 ノアはその素早さを生かし、側面から敵を攻撃し体力を削る。

 最後に後ろで詠唱を終えたナギの魔術で敵にトドメを刺す。


 コレがナギたち3人の考え出した必勝パターンだ。しかしこの動きは、簡単に最大火力を発揮する事が出来る戦術だが、コレまでにも冒険者たちの間で使い古されてきた戦術の派生でしか無かった(前衛が壁役の戦士職、後衛が主力となる魔術師の場合)。


 もしコレがナギたちが暮らしてきた国で初めて受ける討伐依頼としてのゴブリン退治であったなら何も問題が無かっただろう。

 それこそ変なイレギュラーが起きさえしなければ、何の苦労もなくゴブリンを倒して依頼達成をしていただろう。


 だが、此処は暗黒大陸。かつて(人間を超越した者)と言わしめた金等級冒険者たちの命を飲み干した大地。老若男女、貴賤を問わず、その全ての命に生と死が等しく与えられし迷宮。

 そんな場所で生きのびてきた亜人が何も考えずに生活が出来るであろうか?答えは否‼︎考えてみて欲しい。


 ゴブリンたちは冒険者を先に発見していた。つまり戦闘における優先権(イニシアチブ)はゴブリンたちが支配していると言う事だ‼︎

 そしてそれはゴブリンたちは自分たちが優位に立ち回れる事を示している。その上でゴブリンたちは確実な勝利の為に、それぞれの役割で動いていた。


 先にゴブリン斥候が冒険者たちの後ろに回り込んでもらい、戦闘になれば何時でも冒険者の後方から奇襲が出来る様にしてもらう。

 ゴブリン弓手には後方で待機してもらいつつ、冒険者が攻撃してきたらいつでも撃てる様に準備させる。その後は移動して補佐に回る。

 そして囮となるゴブリン剣士がワザと彼らの前に出て、冒険者たちがどう動くかを見極め仲間に知らせる。そして前に出てくる冒険者を足止め又は無力化する。


 つまり、戦闘が始まれば不利になるのは冒険者側であったが、ナギたちはそれが分かってなかった。

 故に戦闘が始まって直ぐにナギたちは不利になった。






 「フランク‼︎ゴブリンの足止めを。ナギお嬢様に魔術を使わせずに片付ける‼︎」


 ノアの言葉にフランクが応える。


 「あぁ、こんなの相手にお嬢様の魔術を使わせるなんてもったいないからな。

 俺たちだけで片付けるぞ‼︎」


 ノアとフランクは完全にゴブリンを舐めていた。しかしそれは仕方ない所もあった。

 何故なら、先にも述べたがゴブリンは『最弱の亜人』と呼ばれており。

 冒険者でない村の力持ちが村に来たゴブリンを簡単に追い払ったと言う武勇伝をよく聞く為、冒険者なりたての人はゴブリンを馬鹿にする傾向がある。

 だからこそ、新人冒険者はゴブリンが罠や戦術を使うなど考えずに戦う。


 フランクがゴブリン剣士を足止めをする為に盾を構えながら近づき槍で突く。フランクはゴブリンの腕や足に狙いを定め槍を突き放ち、盾の面や縁で顔などを叩く。

 だがゴブリンもそれは理解しており、突きに対しては剣で弾いたり受け流し攻撃を防ぎ、盾での攻撃は後ろに下がったり剣を当てる事で防いでいた。


 フランクはゴブリンに攻撃が届かない事に苛ついていた。そもそも何故ゴブリンが剣術なんかを使っているのかすら考えていた。


 (だけど、それももう終わりだ‼︎俺の目的はあくまで足止め。トドメはノアが刺してくれる)


 フランクはゴブリン剣士の隙を作るためにワザと大振りの攻撃を行い、剣で受けさせる。

 その思惑通り、剣で受けたゴブリン剣士にフランクの影に隠れていたノアが隙をつきゴブリン剣士に向かい突撃を仕掛ける。


 「どうした?あからさまな攻撃を受けるなんて、やはりゴブリンは馬鹿だったか」


 侮蔑の言葉を言いながら、ノアはゴブリン剣士に致命の一撃を与える。

 攻撃を受けさせたフランクと後ろでただ指揮しかしてなかったナギは、コレでゴブリンを倒せたと思った。それこそノアの肩に矢が刺さり、その光景に惚けていたナギが後ろから斬られるまでは。






 ゴブリン弓手は囮となったゴブリン剣士の雄叫びを聞いた。雄叫びを上げたと言う事はやはり対話は無理だったのか。あの冒険者たちも我々を殺すことを当たり前だと考えているのか。

 とは言え、以前に我々に対し好意的に接していた冒険者の話を聞けば、我らに対する扱いとしては当たり前だと思ったが。


 海の向こうに住む我らの同胞は、暗い洞窟などを寝ぐらにし。自らの手で何かを作る位なら他者から盗めば良いと言う怠惰な考えを持ち。他者を労わらず己の利益のみ考え。男にしろ女にしろ攫って無理やり犯す事でしか子を設けられない強姦魔。コチラとしても仲間にするか考えたら断る下衆だからな。


 だからと言って無抵抗で殺される訳にもいかない。彼らにも待ち人が居るだろうが、我らも村に子や嫁が居る。

 待つ者たちの為にも我らは死ねない。残念だが彼らには倒されるか、この場から引いてもらうしかない。そう思いながら構えていた矢を飛び出してきた剣士に向け放った。


 ゴブリン斥候も雄叫びを聞き戦闘になった事を知った。彼は喜びで口角が上がっていた、何故なら彼は外から来た人間と言う存在を快く思っていなかった。

 彼は過去に友を人間に殺された経験から、人間は必ず殺すと言う危険な思想を抱く様になった。

 それこそ、村に迎え入れられた人間ですら隙あらば殺そうとする、村の者も彼の過去を知っているだけに、あまり人間と鉢合わせさせない様に扱いついては特に気を使っていた。


 本当であれば冒険者を見つけた時点で皆殺しを考えていたが、仲間たちの前で勝手な行動は出来なかった。

 共に行動している剣士と弓手はどちらかと言うと融和派であり、戦いの中で殺したのであれば「仕方ない」と考えるが、そうでなければ殺す事を止めるからだ。


 (全員を殺せない事は運が悪いがまだマシかもしれないな。相手はコチラと同数で、縦隊の【投石棒】の構えを組んでいる1番後ろに居る奴だけでも殺してやる‼︎)


 そう意気込みながら、逸る殺気を必死に殺しながら相手の隙を窺う。

 そして冒険者たちの女剣士が肩に受けた矢でバランスを崩し倒れ後ろに下がろうとしている、その事に気が向いていた魔術師の背中から斬りつける。「んぎぃ⁉︎」と言う間抜けな声を上げながら転がる魔術師の右腕を踏みつけ、魔術を使えない様にしながら相手を観察する。


 見た感じまだ若い女だった。表情から先ほどまで自分たちが完全に優位であると勘違いしていた奴らの絶望する顔はいつ見ても愉快だが、俺は多くの人間を殺さなければならない、さっさと殺そう。

 そう判断したゴブリン斥候は女魔術師の喉に剣を突き刺した、女魔術師は痙攣しながら死んだ。






 フランクは隣で矢が刺さり倒れたノアに「大丈夫か?」と声を掛ける。


 するとノアは「私は無事だ‼︎それよりもお前はゴブリンに専念してくれ。この位の矢なら抜いて直ぐに処置すれば大丈夫だ」


 そう答えフランクの後ろに下がろうとする。するとナギお嬢様の後ろからもう1匹のゴブリンが近づきナギお嬢様を斬りつけ、動けなくなったナギお嬢様を踏みつけ剣を逆手に構えた。

 その意味を直ぐに理解してしまった。そして傷の事も忘れ動く。


 「嘘だろ⁉︎キサマ‼︎ヤメローーーー‼︎」


 私はゴブリンに叫んだが聞く耳をもたずナギお嬢様の喉に突き刺した。


 殺した?殺された⁉︎殺しやがった‼︎

 ゴブリン如きがナギお嬢様を⁉︎巫山戯るな‼︎

 殺す‼︎殺してやる‼︎私の命をかけても絶対に殺してやる‼︎

 無我夢中でナギお嬢様を殺したゴブリンに肉薄する。すると足に痛みが走り転んでしまった、見ると矢が刺さっていた。またゴブリンか‼︎何故私の邪魔をするんだ‼︎


 再び襲う痛みすると、ジャリと地を踏む音に向けるとナギお嬢様を殺したゴブリンが立っていた。

 殺される。そう思った瞬間私とゴブリンの間に矢が刺さった。


 驚いたゴブリンが見るとそこには赤い鎧を着た大男が弓を持ったまま立っていた。

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