第16話敗北と講和

 森の入り口に待機させてる仲間の元に戻る最中、近くで戦闘音が聞こえた。


 (試験中の他の冒険者パーティーが近くに居るのか?無視しても良いが・・・いや、念のため確認しておこう)


 そう思い現場に向かったロベルトが到着すると。冒険者のパーティーはナギたちであり、そして彼女らがゴブリンと戦闘を行っていた。

 戦況を確認すると前線のフランクは決定打がなくゴブリンに苦戦し、ナギは倒れて動かず、そんなナギを助けようとしてノアが動き足を負傷したのか。現状ではナギたちの方が不利になっている事が見て分かった。


 (何でナギたちがこんな所で戦っているんだ?彼女らには森の入り口で待機してもらってた筈なのに?何か問題が起きて森の方に逃げてきたのか?

 それにピピンの姿が見当たらないが何処に行ったんだ?まさか!アイツだけ仲間を見捨てて逃げたのか?くそ、信用出来ると思っていたが、見抜けないなんてとんだ間抜けだな俺は)


 ロベルトは何故ナギたちが森に入って来たのかも、彼女らがピピンに対し行った凶行も知らない為。現状ではそう考えるしかなかった。

 それに今はナギたちの救出が最優先な為、出来る事を最大限に行うしかなかった。


 改めて確認をする。倒れて動かないナギ、前線でゴブリンを食い止めるフランク。そして、ナギを助けようとして矢を射抜かれ倒れたノア。見る限り最悪な状況である事が見て分かる。


 (今はノアの近くに居るゴブリンを離れさせる事が先決だな。トルフには倒れたナギの元に行ってもらうのが良いが、俺にはそこまで指示して言う事を聞かせられる自信がないから一緒に来てもらおう)


 考えを纏め、弓を引き絞りノアとゴブリンの間に矢を放つ、矢は狙い通りに2人の間に刺さりゴブリンがノアから離れる事で牽制が出来た。

 その隙に急いで合流する。倒れたノアを確認すると足だけでなく肩にも折れた矢が刺さっていた、抜かずにいたと言う事はよほど急いでいたと言う事だろう。何に?多分倒れたナギに対してだ、ゴブリンを牽制しながらノアに語りかける。


 「ノアさん、一体何があったのですか?私は森の入り口で待機する様に言ってましたが?」


 「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 駄目だ。「殺す」しか言わない。余程ナギの事が心配なのだろう。


 「フランクさん‼︎俺が殿を勤めるので荷物を捨ててノアさんとナギさんを連れて撤退して下さい‼︎」


 「無理だ‼︎目の前のゴブリンをどうにかしないと」


 そう答えるフランク。此処で試してないから確証も無く、通じるか分からないが賭けてみるしか無いか。

 目の前で対峙するゴブリンを攻撃し引き離す、そして、すぅ。と息を吸い『グィリアーーー‼︎』と叫ぶ。


 大声に一瞬竦んだ隙にノアを担ぎフランクに渡し、「俺だと無理だ‼︎ナギさんを連れて下がれ‼︎」と命令してゴブリンの前に立つ。

 流石に察したのだろう、「分かった‼︎すまない」と言いフランクはノアと一緒にナギを担ぎ撤退した。

 ゴブリンと対峙しながらフランクが見えなくなるまでゴブリンと『お見合い』をした、しばらくしてゴブリンの方から「先ほどの叫び声、もしゴブリン語が分かるのなら。人間よ出来れば話をしたい」と剣を地面に刺し対話の姿勢をとった。


 武器を地面に突き刺す。これは互いに戦いの中で、対話で解決しようと言う戦争法に記された作法だ。やはり彼らは人だ。俺が住んでた国と同じく礼儀を持って接しないといけない。

 俺も対話が目的だったので剣を抜き地面に突き刺す、これで互いに対話をする事が出来る。






 こうして俺とゴブリンたちによる、戦闘の後処理について話し合いになった。

 ゴブリンたちの人数は3人、ナギたちと同じ人数ではあったが、先ほどの戦いを見るに経験と練度は天と地ほどの差があった事は見ていて分かった。


 俺たち側が損害が大きいが戦闘中の事となると敗者であるこちら側が考慮しなければならない。

 だが、先ずは自己紹介からだ。その後、何故森の中で戦闘になっていたのかを聞かなければならない。


 「先ずは互いの名前を呼び合おう,俺はロベルト、赤鎧(せきがい)のロベルト。ゴブリン殿の名前を教えてもらえるか?」


 俺が言うと答える。

 「赤鎧(せきがい)のロベルトだな?確かに覚えた。我はブゴ村の戦士リゴ、後ろで弓を持つのはブーン、剣を持つのはミドだ」


 3人のゴブリンが名前を紹介した。ブゴ村とは名前なのだろう。

 彼らの文化は俺の住んでいた国のゴブリンと同じ様な文化を形成している、それが正しいならココからが本番だ。


 「誇り高き緑肌の隣人リゴよ。今回の争い、俺の仲間たちがしでかしたこと大変申し訳なく思う。

 その上で聞きたい事がある。あの3人はいかにして戦うこととなった?そして、3人の他にもう1人居なかったかを教えてくれないか?」


 俗に言う亜人に対する最初の口上を述べ敬意を表する。

 賠償はどうなるか分からないが、払うように言われたら支払わないといけない。たが、その前に、此処で何があったか?どうして戦ったかの確認を聞かなければならない。


 そのためには先ず彼らの機嫌取りからだ。


 「我らを隣人と呼ぶロベルトよ?其方の生まれ育った国はもしやナルバスなど親亜人国か?そうでなければ我らを隣人と呼ばないが?」


 親亜人国?意味合いとしては亜人との共存が出来ていると言う意味だろう。だが、コチラに食いついてくれたのだ。ココは正直に答える事にしよう。


 「ナルバスが何処の国か、親亜人国についてはよく分からないが。俺の生まれた国はエルフやドワーフと同じく、ゴブリンやオークなどの亜人を同じ国の同胞として住み、互いに手を取り合って暮らしている」


 「おぉ・・・まさか、そなたは親亜人国の出の者なのだな。そして、我らを亜人と呼ばずに人と呼んでくれる。

 それほどまでに其方の国では、良き隣人として関係を築いているのだな」


 ロベルトはリゴが(親亜人国)と言う言葉に、何か特別な意味があるのかと考え、自分の勉強不足を嘆く。


 (こう言う事は後で訓練場で聞くべきだな。だけど俺の分からない事が知れた、それは感謝しなければならない)


 「リゴ、感激している所悪いが、そろそろ話しの続きを初めよう。

 我らが交友を進めるのは話しを終えてからだ、先ずは勝者と敗者の話から進めるべきだ」


 さて、少し話しが脱線してしまったが此処からが正念場だ。






 「先ず、俺たちのメンバーとリグたちはどの様な経緯で戦闘を行ったのか知りたい。それと、俺が見た時には3人だったが後1人は何処に行ったのかしらないか?」


 最初に戦闘がどの様に始まったのか聞く。向こうは何か歓喜回ってるから、ある程度は正直に答えてくれるだろう。仮にコチラから仕掛けた場合は、俺が何かしら相手に渡さなければならないからだ。

 後はあの場に居なかったピピンがどこに逃げたのかを調べないといけない。


 「良いだろう、隣人たるロベルトよ。先ず、戦いは我らが先に彼ら3人を見つけ、接触した事から始まる。

 目的は(何のために行動しているのか?)であり、我らの村への侵攻であるなら撃退。そうで無いなら友好を結び。場合によっては村に招く事も考えていたが、彼らは戦いを望んだため戦ったまでだ」


 それだけを聞くと戦闘行為をしたこちら側に非がある。

 だが、こう言う事は大体が、自分の方に都合が良い様に話すのが常であり、そのまま鵜呑みにしてはいけない。


 だが、先ほどの戦闘で負けていた事を鑑みても最終的な非はコチラだ。

 今後の彼らとの交流も考えて動く事にしよう。


 「分かった。こちら側に非があった事で俺からは彼らが置いていった荷物を貴方たちに渡したい。

 だが、荷車だけは勘弁してもらいたい。アレは私たちの持ち物では無く借り物なので。後、今から森に待機している仲間の1人を此処に呼んで良いか?森の中は危険で、貴方たちの事が分からないままだと互いに危険なのでこの話し合いに参加させたいのだが?」


 「分かった、その仲間を此処に呼んでほしい。無益は戦いを避けたいが為にも頼む」


 許可を得てから狼煙を上げメイを呼ぶ。






 狼煙を上げてしばらくするとメイがやって来た。


 到着したメイが俺とゴブリンと一緒にいる事に対し、狼煙を上げたことで敵に捕捉され対峙していると判断したらしく。

 直ぐに矢を構えたが俺が「待て‼︎射るな‼︎」と言った為、何とか戦闘にならずに済んだが。ミドと言う戦士はメイを見ると射殺さんと言う目付きで見ていた、多分だが、彼はどちらかと言うと人は殺す(過激派)なのだろう。


 ちなみに軽く補足すると。両者の違いは、戦う時以外の時に人と会った時、話し合いなどを行い最低限の交流を図ろうとする者たちを(穏健派)と呼び、そんな事関係なく、人は見かければ皆殺しと言う考えを持つ者たちを(過激派)と呼んでいる。

 この違いは経験や思想の違いで別れたりしている為、(穏健派)だから無条件に友好を結ぼうだったり、(過激派)だからと言って一方的に非難はできない。


 改めて、メイを含めた上で講和を進めたが。メイも荷物を渡す事には賛成し、彼らとの交流も最初は挨拶から始めたいと言い。彼らはとの間で軽い同盟を結ぶことができた。


 こうして最初の野外遠征試験は失敗に終わり森の外に出る事となった。

 ちなみに、街に帰ってからメイから。彼らとの講和において最初、自分の事を忘れていただろうと問われ。正直忘れかけていたと答えた所、腕を思いっきり振りかぶって頬に平手を喰らった。

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