第14話遠征ではルートの選定を計画的に
遠征が始まり森に到着するまでに続く街道脇に実る麦畑を眺めてみる。
青々と実る麦畑、風に吹かれ踊る穂先を見てると心が安らぐ。平和とは程遠い場所に身を置く俺たちだが、だからと言ってこの風景に何も感じないわけでは無い。
元々ここに居る多くの者が、色々な作物や家畜を育てたり、山を駆け獣を狩りをして村の生活を支える側にいたんだ。
コレから始まる遠征、何が起こるか分からない。その前に少しでもこの風景を目に焼き付けておきたい。
城壁都市を出てから大体1時間ぐらい経っただろうか?ようやく森の入り口まで到着した。
目の前に広がる森、別名(魔界への入り口)これまでの演習では城壁前に広がる平野で行ってきたが(それでも魔物と遭遇したりするが)。
ここから先は、俺たち新人冒険者にとっては見知なる世界。魔物たちの領域へと踏み込むのだ、コレまでに培ってきた知識や技術が試される。その前に全員に改めて装備を点検する様に指示する。
装備の点検を終えた俺たちは先ず、俺とメイ先に森に入る。他の4人については森に入らずに入り口で待機してもらう。
全員に渡した地図を元に、4人が通る道を主道とするなら。俺たち2人が進む道は、獣道や畦道と言った移動が難しい道だ。そんな道を進みながら安全化をしなければならない。
何故そんな道を行くのか?それは斥候は敵からの目線にならなければならないからだ。
主道とは他の冒険者たちが歩いて地面が他より固まっていて広く歩きやすい。敵からしたらそんな分かりやすくて危険な道を通って接敵なんてしたく無い。
ならどうするか?少数であれば主道を見渡せる位置で見張りをたて、隙をついて横から強襲と離脱を繰り返しながら敵を損耗させたり。
後ろに主力となる部隊が居るなら。主力と接敵する前に報告や威力偵察、足止めなどの遅延行動を行い、疲労した所を主力で叩く。
そんな最悪な状況を防ぐためには、斥候が主力より先に潜入し。進行ルート上に敵や罠などがないかを索敵しながら進む必要がある。
仮にそれらがあった場合には、危険の排除、もしくは移動する道の変更をしなければならないからだ。
今回の遠征は、7日間と言う制限がある為に敵の排除を優先するが。本当ならばさまざまな要素を加味して選択する必要がある。
話を戻そう。今回の斥候をするにあたって俺はメイからフングを借り受ける事にした。
メイ曰く、フングは狩猟犬と言うより闘犬向きの犬種らしいが、犬の嗅覚はバカには出来ない。
そこでメイは、フングを狩猟犬としてもやっていける様に根気強く調教していたらしい。その結果、同じ種類の闘犬たちより多少は我慢がきくらしい。
それに、斥候をする上では基本的に単独行動を行うのは危険だ。この数日間、フングが俺の言う事を聞く様にする為、メイから色々教えてもらいながら仲を深めた。
その結果、フングは俺からの簡単な指示であれば聞いてくれる様になり。そして俺はメイがフングに教えた鳴き声の意味を教えてもらいながら少しだが分かるようになった。
フングの胴体にハーネスを装着し、更に長い紐を付ける。こうする事でフングが興奮して遠くに行くのを防ぐ事ができる(メイのトルフには紐は付けていない)。
これが信頼関係の差なのだろう。トルフはメイの出す命令に素直に答えている。一方の俺はフングに何度か命令してやっとだ。
コレで上手くいくのか不安だったが何とかなっていた。
森の中に入ると、それまでのんびりとした雰囲気だったフングの表情が引き締まったかの様に思えた。彼は彼なりに今がどう言う状況なのか分かっているのだろう。
俺とメイは二手に分かれながらも、お互いに見えない為、合図として口笛や、見える所まで出てきて手信号などで周囲を確認しあいながら進む。
ある程度まで安全が確認出来たので4人を呼びに戻る。この時も1人は半分の所まで戻ってもらい、戻ってる間に変化が無いかを確認をしてもらう。
その役割は索敵能力の高いメイが適任である為、森の中に残ってもらう事にした。
そう思っていたのだが、そこで問題が起きていた。
(嘘だろ⁉︎どうしてアイツらがこんな場所に居るんだ⁉︎)
なんとそこにはナギと従者の3人が勝手に森に入ってきており、更には亜人と交戦していたのだ‼︎
〜ロベルトたちが森に入ってから少しして〜
森の前で待機を命じられたナギは不満を口にしていた。
「どうして私たちがこんな所で待ってなきゃいけないのよ⁉︎
斥候だか何だか分からないけど?こんな所で待たせるなんて非常識だわ‼︎」
ナギの言葉に同調するかの如く、ノアとフランクは頷いたが。ピピンのみがそんなナギの言葉に対し反論した。
「ナギさん。今の貴女はリーダーであるロベルトくんの言葉に従う義務があります。
それに、リーダー不在のまま森に入ってしまい、問題が発生した時の判断が出来ないでしょう?
それならば、少なくとも今はロベルトくんかメイさんが戻ってくるまで、この場で待機するのが妥当であり安全なのです」
「私は天才なの‼︎アンタみたいないかにも底辺の男みたいな無教養じゃないのよ‼︎
しかも、アンタみたいなデブの腰巾着にそんな事言われる筋合いないわ‼︎」
正論を言われたにもかかわらずナギは罵倒で返す。更に続けて。
「大体、アンタが私の案に賛成してたらこんな事になってなかったのよ⁉︎その責任をどう取るつもり?
それとも、このまま自分は何も関係ないだなんて言うんじゃあないでしょうね?」
「それは違います。僕はリーダーであるロベルトくんの出した案の方が今回の遠征に向いている、そう思ったからロベルトくんに賛成したまでです。
ナギさんの案は短期間。長くても1日、短ければ日帰りなんかで行われる陣形でした。
だけど今回の遠征は7日間と言う、僕たちにとっては初めてと言ってもいい長期間の遠征になります‼︎
それらを踏まえて考えてみれば、安全策を取るのが妥当な考えでしょう?」
ナギの(自分こそ正しい)と言う考えに真っ向から反論するピピン。討論は平行線を辿っている。
だが、元々ナギの従者であるノアとフランクは自分の主人であるナギに追従して、だんだんとピピンを責め立てる。
3人から責め立てられながらも、何とかナギたちを抑えるピピン。しかしついに我慢の限界が来たのであろう。
「もう待ってられないわ‼︎私はもう行く、よくよく考えてもあんな奴の命令になんて聞く必要なんてなかったのよ‼︎
ノア、フランク‼︎そうと決まれば急いで荷物を纏めて貴方たちも着いて来なさい‼︎」
リーダーであるロベルトの命令を無視して勝手に森に入ろうとする。
流石に不味いと思ったのだろう、ピピンは3人の前に立ち上がった。だがその手には武器を持っておらず、その状態で3人を止めようと立ち塞がる。
「駄目です‼︎そんな事すればロベルトくんの責任問題になります。それに最悪の場合、今回の遠征メンバー全員にとってよくない事が起きる可能性だってあるのですよ‼︎
僕はロベルトくんに言われた通りに此処で待機する事を勧めます。それでも行くと言うのであれば、僕を倒してからいきなさい‼︎」
そう言うとナギたちは武器を構えて襲いかかった、前衛にフランクその後ろから遊撃のノア、最後尾に魔術師のナギと言う3人パーティーにおけるオーソドックスな陣形だ。
ピピンは今更ながら自身の認識が甘かった事を呪っていた。
抵抗しながらも、武器を持たずに立ち塞がれば、普通であれば無抵抗の相手は攻撃し辛いだろうと考えていたらからだ。
だが、目の前に居る3人はそんな事は関係無しに攻撃した。
短槍と剣で、執拗に痛めつけた後に最後のトドメと言わんばかりにナギがファイヤウェーブを唱えてピピンを燃やした。
悲鳴こそ上げなかったものの、3人の攻撃で殺したと思ったのだろう。3人はピピンが死んだかを確認もせず、自分たちの荷物を纏めて森に入っていった。
ピピンを殺し、森に入った3人は。ロベルトが進行ルートとして決めていた主道を元に森の中を歩いていた。
「何よ?危険なんて全く無いじゃない。
あんなにも長い時間、入り口で私たちを待たせておいて、『その結果が何もありませんでした』だなんて。
やっぱり、あんな奴をリーダーなんかにせずに、私こそがリーダーを務めるべきだったのよ。
そう思わない?ノア、フランク?」
自分たちの主であるナギの言葉に頷く2人。3人はまるで遠足に来ているかの如き足取りで森の中を進んでいく。
その間、周囲の索敵など誰も行わず。声を出しながら歩き、自分たちの興味を引く物があれば、何も気にせず音をたてながら採取を行い森の奥に進んでいく。
そして、こんなにも【自分が此処に居ますよ】と言う誘いをしていたら、弱きモノは逃げ、強きモノであれば獲物が狩れるかを見定めるべく動き出す。
ゴブリン。曰く最弱の亜人。原始的な生活を営み。特徴として、緑の肌に背丈は120から140程の子供の様な体躯からは考えられない筋力を有する者たち、稀に『先祖返り』と言われる、大人顔負けの偉丈夫であるホブが生まれる。
そんな彼らには、メスの存在も確認されており。他の種を攫わなくても良いはずなのにそれでも何故、他の種を攫うのかなどは全く判明していない。
教会曰く、「ヤツらは唾棄すべき強姦魔であり、生まれながらに多くの罪を背負いし哀れな存在の1つである。そんなヤツらに我々が出来る事はただ1つ、神に赦しを問い、大人しく首を差し出させて、我らが救いのため殺すべき存在だ」と言う。
そんな彼ら3人のゴブリンは獲物を見つけからしばらくの間、どう動くのかを観察していた。
(相手の数はコチラと同じく3人、装備はしっかりしているが、動きからして彼らは新人の冒険者なのだろうか?
一体なんの目的で森に入ってきたのだ?それが分からないままではコチラから打つ手が無い。
それに、あんな風に大きな音を出したまま動くなんて、コッチから見つけて下さいと言っている様な物だ。森の歩き方を知らないの連中では長く生きられない。無視すべきだろう)
1人がそう推察する。
(だが、武装は無視出来ない。それに奴らが背負う荷物、長く森に入ると言う事だ。もしかしたら、我らの村が見つかってしまい我らを殺す為に来たのかもしれない‼︎
それなら、まだ幸いにして奴らはまだコチラに気付いていない。強襲して倒すべきだ‼︎)
それに対して
(いや、彼らを迎え入れてみるのは如何だろうか?交流のあった近くの村が滅び、外に出ようにも危険が多い、このままでは我らの村は血が濃くなっていき、我らは死を迎える。その前に、外から新しい血を迎え入れなくてはならない。
話し合いで解決するなら良いが、無理なら殺す。運良く生き残った者を村に招く、奴らは我らを強姦魔と言って殺してくる。気をつけなければならないのは男の方だろう、少なくとも文明的な奴らである事を祈ろう)
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