第12話チャーティー教官長の実力
「貴様ら‼︎そこで何をしている⁉︎」
怒鳴り声が響き、その場にいる全員が声の主を見る。
そこには鎖帷子の上から革鎧を着込み、木剣と円盾をたずさえたチャーティー教官長が立っていた。
チャーティー教官長の登場にアベルは流石にヤバいと思ったのか、自分は関係ないと言い訳しようと思考する間に優男がチャーティー教官長に近づいて喰ってかかった。
「これはこれは教官殿?この様な時間から装備に身を包みどうされましたか?
まさか訓練生の問題に教官自らが首を突っ込むつもりですか?」
優男の問いに対しチャーティー教官長は答える。
「いや、普通に首を突っ込むだろ?俺は此処の責任者なんだぞ?
お前らが何をするかは分からんが、正当な理由もなく問題を起こされると俺の管理不十分で責任問題になるからな」
と答える。そして、
「それにしてもカール、エイミー、レオナルド。普段は訓練の時間まで建物から出てこないお前たちが何故この場にいる?
それにアベル、ナロン、ネリィ、お前たちも朝遅くまで寝ている様な奴らだ、それなのにこんな朝早くに訓練場にいるのはどうしてだ?」
と逆に問いかける。
「その様な事、俺たちがどうしようが勝手ではないのか?
それに、先ほども聞いたが教官殿もその様に装備を着てどうされましたか?
まさかとは思うがそこの下民と剣を交えるつもりなのか?」
「そのまさかだ。ロベルトは今この場にいる貴様らより優秀であり、朝早くに訓練をしてきていたのを見てきた。そして、互いの同意の元に手合わせをしている」
「自分より強い」その言葉にプライドを傷付けられたのか、優男ことカールがさらに喰らいつく。
「俺があの様な下賎の輩よりも弱い⁉︎そう聞こえたが何かの間違いではないのか?
俺は国において、最高の剣の師による指導の元、最強の剣技を収めている。その俺がそこの下民よりも弱いと言うのか?」
とカールはチャーティー教官長に問いかける。それに対しチャーティー教官長は
「あぁ、そうだ。確かに単純な剣の腕自体ならばお前の方が上だろう。だが‼︎それだけで勝てる程冒険者の戦いとは生易しい物じゃあない。
そして、それを理解して戦っているロベルトと貴様とでは戦った時の結果が目に見えて分かるだけだ」
そう断言した。
「そこまで言うのであれば俺と決闘をさせろ‼︎元よりそこの下民とは決闘をさせるつもりだったのだからな‼︎」
カールはそう告げる。やっぱりこの状況はアベルと協力して俺を決闘させるつもりで起こしたのか?一体何の見返りでだ?
だけど、先ほどの発言だけでは証拠として弱いため告発は出来ない。決闘で勝てばアイツの口から割ることで告発が出来るが。
「残念ながら、その決闘をこの場で了承する事は出来ない。
決闘をするのであれば。正式な手続きをしたのち、互いに何を掛けるのかの了承を得てからだ」
チャーティー教官長はあくまで慣例を優先して正当な手続きをする様に言う。
「そんなモノ関係あるか‼︎決闘の理由など(この俺が侮辱させられた)それだけで十分だ‼︎そして今すぐにでも行わせるんだ‼︎」
あくまでも規則を優先するチャーティー教官長、それに対し自身の感情で動くカール。どちらが正しいか?それは一目瞭然だろう。
「駄目なものは駄目だ。どうしても決闘を行うのであれば・・・」
ブゥン
その先の言葉を遮る様にカールは腰の剣を抜きチャーティー教官長に斬りかかった。
カールの動きを見ていたのであろうチャーティー教官長は、身体を僅かに逸らすことで斬撃を避ける。
「貴様・・・上の立場の人間に剣を向ける事の意味を分かった上でやってるのか?」
「そんな事関係あるか‼︎
大体、貴様もそこの下民も、平民であるにもかかわらず、この俺に協力を求めてきたアベルも、全てが気に入らん‼︎
何故どいつもこいつも俺の言う通りに動かないんだ‼︎」
もはやなりふり構わないと言った感じで剣を振るうその姿は、お菓子を貰えず癇癪を起こした子供の姿だ。
その姿に呆れたのだろう。チャーティー教官長は
「はぁ・・・そこまで言うのであれば、特別にこの場で戦わせてやっても良いだろう。
勝てば先程の件を流してやっても良い。
ただし、貴様が負けたならば何故この様な馬鹿げたことをしたのか話す事、そして冒険者としての資格を取り消し、この場からの退去する事を条件にだ」
厳しいだなんて言わない。
そもそも、この場で誰よりも立場の高い教官長に傷を負わせようとしたのだ。その場で殺されないだけマシだと思わなければいけない。
更には、決闘に勝ったならば無罪放免と言うんだ。これ程までに破格な条件は無いだろう。
これが【実績と信頼が全て】と言う冒険者ならではの考えと言った所なのか。
そして、その言葉を聞いたカールは口角を上げ「ならば直ぐにでも下民と戦わせろ」と言う。
「残念ながら、ここでロベルトとカールの決闘を行わせる事は出来ない。
それに貴様が戦う相手はこの俺だ」
その言葉にカールは再び癇癪を起こすが
「ほぉ?この条件を飲まないなら俺は後ほど、先程の件を都市全域に公表した後。貴様の冒険者資格の剥奪、更には暗黒大陸での市民権を剥奪したうえ都市から追放を検討するがいいかな?」
何と言う破滅の4点セット。誰もが否応にも応じなければならない最悪の状況に持っていく手腕、流石は長年この場を任されているだけはある。
その言葉を聞くと流石に癇癪を起こしていたカールも直ぐ様黙る。そして、戦いに了承した。
「決闘のルールは従来のモノと同じとし、相手を殺す事を禁ずる。コレを破った場合は相応の処置をする、それでいいか?」
そう言いながらチャーティー教官長とカールは武器を構える。
審判は何故か俺が請け負う事になった。カールはお供のレオナルドに命じ武器と防具を持って来させた。
因みにその装備は細い刺突剣を模した木剣に額を守る鉢金。胸部を守るブレストプレートのほかには腕にバンブレース(前腕部の鎧)とガントレット(手の鎧)、下半身はグリーブ(脛当ての鎧)のみ装着しており手には盾を持っていない。
そんな装備を見てロベルトは考える。
(何でアベルもだがカールと言う奴も軽装な上に盾を持たないんだ?
もしかして、俺やチャーティー教官長の様に盾で受けてから攻撃するのではなく。回避を軸に戦う、そう言うのを念頭においた装備が最近の冒険者達の流行なのか?)
この時のロベルトは知らなかったが、当時〈転生者〉と呼ばれる出自不明の冒険者による活躍が若者たちの間で話題になっており。
その冒険者は、たった1人、剣と魔法のみでゴブリンやオークの集団を全滅させると言う活躍をし、その時に鎧はおろか盾すら着用せずに戦った姿から。その功績を聴いた国王から〈勇者〉の称号を下賜され、その活躍に感化された若者たちがこぞって勇者の装いを真似する様になっていた。
戦いに戻ると、チャーティー教官長は剣と盾を胸の前に構える(乙女の構え)をしており。対するカールは(アンガルド)の構え(これはフェンシングにおける基本の構え)をしており、2人はそれぞれ、“攻撃を受ける”そして“攻撃を避ける”と言う対極の構えをしていた。
「初め‼︎」その合図とともに先に動いたのはカール。一気に間合いを詰め盾で庇いきれない足元に鋭い突きを放つ。
それを想定していたのであろう、一歩下がり空振りさせ刀身部分を踏み剣を直ぐに使えなくするとそのまま手のスナップを利用して左一文字(横方向からの斬撃)を行う。
剣を足で踏まれ動かさず、攻撃を剣で受ける事が出来ないと判断したカールは即座に剣を手放し距離を取ると、即座に魔法の詠唱を行う。
【原初の火を我らに与えらし聖天使よ。今ここに、我らを仇なさんとする邪悪なる輩から、聖なる弓矢で我らを守りたまえ】
「ファイヤボルト‼︎」
魔法。攻撃系であれば、下位の物であっても相手に大きな負傷を負わせ相手を倒す事のできる強力無比な力。
そんな魔法の詠唱を終えると共に放たれる炎の矢はチャーティー教官長の顔に目掛けて放たれた。
放たれる魔法を盾で受け、そのままカールとの距離を詰めるチャーティー教官長はその状態から真向斬り(縦方向からの斬撃)でカールの頭部を狙った。
魔法を使い。自身の勝利を確信していたのであろうカールは、チャーティー教官長の動きに対応をする事が出来ず、無防備な状態で頭部に攻撃を受けてしまったため、その場に倒れこみ気を失ってしまった。
「勝負あり‼︎勝者チャーティー教官長‼︎」
勝利の宣言と共に、カールとパーティーを組んでいるエイミー、そしてレオナルドが倒れたカールの元に近づく。
ただ気を失っているだけだと分かったのかレオナルドがチャーティー教官長の胸ぐらを掴みかかり吠える。
「貴様‼︎よくもカール様を‼︎この事は本国に居られるカール様のお父上に報告し、ギルドの責任問題として貴様を縛り首にしてやる‼︎」
訳の分からない事を言ってやがる。
アイツ本当に冒険者ギルドで手続きしたのか?
そんな素っ頓狂な言葉に流石のチャーティー教官長も目が丸くなった。
「いや、何言ってんだお前?お前の国ではカールがどんな身分かは分からんが、此処は暗黒大陸の城塞都市フスロだ。
フスロにはフスロの法があり、お前たちは別の国からこの国に来た部外者でしかない。
そんなお前たちに出来ることは、フスロが定めし法の下で生きる事であり、お前たちの国の法が介入する事は出来ない。もし、こちらに介入してくると言うのであれば。俺たちは国を守る為に戦争を起こすまでだ」
戦争。その言葉を聞いたレオナルドはそこまでの覚悟までは無かったのであろう、直ぐ様掴んでいた手を離した。
「それが分かったならとっととカールを連れて行け。
そして、カールが目覚めたら何故この様な事をしでかしたのかじっくりと聞かせてもらうからな」
チャーティー教官の言葉を聞く前にレオナルドはカールを担いで行き、エイミーがその後を追って行った。
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