第11話悪意ある噂、行わせない決闘

 決闘から数日が経ち、俺とメイは相変わらず訓練や講義の内容の復習に勤しんでいた。

 今のところ変わった事といえば、とある人と訓練をする事とメイが俺から剣での護身術を教えて欲しいと言ってきた事くらいだ。


 誰かに戦い方を教えるのは村でもしてきたから大丈夫だが。

 問題としてはメイは弓での戦い方が主流であり。それだけだと良かったが、連れている犬との連携などを考えると難しいため。

 先ずは基礎から教えていきそこからどう活用するかを考える事にした。

 

 そして、周りでは決闘の事が話題になっている。俺があまりにも鮮やかに勝ってしまったせいもあり、事あるごとに話しかけられたり勧誘を受ける様になった。

 俺としては色々と課題が出て来たから素直に喜べずにいるが、話が振られたら嘘であっても話を合わせている。


 特に問題なく過ごせていたはず。そう思っていたのだが、アベルが戻って来た頃から少しずつ変になって来た。






 その頃から変な噂がとびかうようになった。

 曰く、決闘において八百長があった。曰く、決闘の前に毒を盛られた。曰く、決闘の結果は最初から決まっていた。 と言うものだ。

 そして、この噂に賛同した人たちが俺を非難してくる。


 内容は決まって「あんな戦い無効だ!」や「冒険者として恥ずかしくないのか?」そして「卑怯な手で勝った勝利は嬉しいのか‼︎」などだ。

 言わせるだけならまだ大丈夫だ。だが、そこから先の言葉だけは言わないでほしい。


 こんな噂を流した奴は十中八九アベルだろう。それかアベルが運ばれる時について行った奴らか。

 今回も証拠が無いため追求が出来ない、だが、今回はどっちが先か何て関係ない‼︎



 アイツは決闘での約束は今の所は守ってはいるが、暗黙の了解を破った‼︎


 [神と誓約書によって取り決められた決闘において、如何なる結果になったとしても一切の遺憾を持ち込まない]


 要は、負けたからって後からウダウダ言うんじゃねぇ。

 と言う事だ。


 負けたのは単純に実力が足りなかった。ただそれだけなのに、神の加護が〜とか、あの時はたまたま体調が優れなかった、などと言い訳をして、決闘を仕切り直そうとする行為は決闘に関わった全ての者を侮辱する行為であり。


 もし仮に、この流れを利用してアベルが仕切り直しを要求してくるのであれば。

 次は文句を言わせないため確実にお互いの生死を賭けて戦わなければならない、そんな危険な行為をしているのだ。


 俺としても本当の意味で殺し合いをする事にならない為にも神殿で神に祈るか、そこ可能性がある事をチャーティー教官長に報告するしかなかった。






 [冒険は時として、必然と偶然によって竜を呼ぶ]


 冒険者がよく使う諺の一つである。意味としては、冒険中には如何なる状況が起こるか分からない。それこそ目の前にドラゴンが現れるかもしれない。

 と言う意味だ。


 そして俺は、今まさに人の悪意と言う名のドラゴンと遭遇した。


 その日も朝日が昇る前に目が覚め、起きる事が出来た。その日も朝の始まりにコーヒーを淹れ、お気に入りのカップで飲んでから、訓練場を6周ほど走る。

 走り終えたら、訓練場の設備として置かれている木剣を取り素振りから始める。


 素振りは一つの動作を10回、それを5回繰り返して行う簡単なものだ。その後はある人が来てからが本番だ。


 普段通り朝の運動を終え、来るまでの間に井戸で汗を流している所、後ろから「おい‼︎」と声をかけられ振り向くと、そこには男女合わせて3人のメンバーが立っていた。


 俺は元々、人の顔と名前を覚える事は苦手な方だ、それでも目の前にいる3人については明らかに俺の知らない人達だ。

 そんな顔と名前も知らない奴らがまだ誰も起きていない朝早くから、俺に会いに来るのは2つに1つだけ。


 「貴様、決闘でやましい事をしたらしいな?そんな輩が称賛され大手を振って歩くなんぞ世も末だなぁ?」


 リーダー格と思われる貴族風の優男が突然吹っかけてくる。


 それに続く様に取り巻きらしき女が

 「そうよね〜、審判を買収しないと勝てない様なザコが周りから称賛されるなんてあり得ないんだけど〜?」


 と煽りたて。その後ろで金属鎧を着込む騎士風の男は

 「卑怯な手を使わなければ勝てない脆弱者が、この暗黒大陸に来るなんて冒険者と言うのも世の末ですよ!」


 と、お前もこの訓練場にいると言う事は同じ冒険者だろうと、言ってやりたいバカの三者三様の非難を聞く羽目になった。


 (コイツらも決闘での結果を認めない輩か。まぁ、言わせるだけ言わせておけば勝手に満足してどっか行くだろ)


 そう思っていたのだがその考えは儚くも散る事となった。

 突如として肩のあたりに衝撃がきて転がされた。


 「貴様、この俺を無視するのか?大層なご身分だな。ただの冒険者風情が‼︎」


 いきなり蹴ってきたぞコイツ‼︎しかもお前も元は知らないが此処に居るという事はお前も冒険者とだろう?

 周りを見渡す、運良くまだ人は来てない。それならまだここで話し合って穏便に済ませる事ができる。


 そう思っていたのだが、「アレー?」と言う声と共に見計らっていたかの如く現れたのは、普段は朝の点呼ギリギリまで寝ているアベルが自分のパーティーを連れて来た。


 「おやぁ?ロベルトくんどうしたんだい?って、その肩の跡はどうしたんだい⁉︎

 まさか‼︎そこの人たちにやられたのかい?」


 と心配した風に言って優男に抗議をしている。


 (言ってくれるねぇ、アベルの奴。普段は遅くまで寝ているような奴がこんな朝早い時間に来るなんて、元からそうなると分かっておかないと出来ないだろう?)


 何やら色々言ってるが多分この後は、アベルが優男を非難して、それに怒った優男と俺を決闘させると言った流れだろう。


 そしてアベルは俺が勝っても負けてもそれを利用するつもりなのだろう。何処までも卑怯な奴だ。

 だけど俺もこのままコイツらに利用されっぱなしは気に食わない。

 だがまずは、どうやってこの状況を切り抜けるかを考える。


 「だけど酷いね?君は何の抵抗もしていない人に対して暴力を振るったのかい?」


 アベルが優男に対してそう言うと。


 「失礼な、俺はそこにいる無礼者に対し下民として正しい在り方を教えてやっているだけに過ぎない。

 むしろ、私に対し非難ではなく称賛をされなくてはならない。」


 うゎ、コイツは何の疑いも無く言ってやがる、自分たちが選ばれた存在だと思ってる歪んだ選民思想を持ってやがる。


 しかも平民における蔑称まで使って、何処までも自分の思い通りにならないと気が済まないだろう。


 「うーん、そこまで気に入らないなら、そこの彼と決闘をするってのは如何かな?彼は誰とでも決闘を申し込むような野蛮人だからさ?」


 (誰が野蛮人だ⁉︎決闘したのはお前との一回だけだ‼︎)


 心の中で毒づく。そこからも俺に聞こえる様にアレコレ言って、怒った俺が決闘を申し込む流れに持っていきたい様だ。

 だけと残念ながらそれは叶わない、いや、叶えるつもりはない。


 確かに俺の国アルゴス諸島王国の男は勇猛果敢、鉄の装備を壊す技に先の事を考えない狂戦士だなんて呼ばれているが。それは大間違いだ‼︎


 アルゴスの男は確かに勇猛果敢ではある。だが、狂戦士なんかではない。

 確かにアルゴスの技の中には鉄兜を叩き割るなんて技があるらしいが俺が習った剣術にはそんな物はなかった。


 そもそも、アベルとの決闘はメイがアベルからの勧誘に困っていたから行ったものであり、彼女を守る事が彼女の望みであり、俺自身の名誉になるのだ。


 だけどアイツらの言い争いの中に俺の名誉となる物なんて無い。

 故にアイツらから挑まれる決闘には応じるつもりはない!

 そう言おうとした矢先。


 「貴様ら‼︎そこで何をしている⁉︎」


 怒鳴り声が響き、その場にいる全員が声の主を見る。

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