第10話決闘 (VSアベル)
ロベルト視点
さて、俺は決闘の場となるリングを見渡す事にした。広さは約25フィート(約4メートル)で周りを木でできた柵で囲った八角形のリングだ。そして柵は下の方に大体6フィート(約1メートル)ほどが横木をされておらず、そこから転がり出れば勝敗の1つである場外に出られる様に出来ていた。
宣誓をした後、互いに対角になる様に柵の端に寄ってから相手の装備を観察する。
アベルの装備は長さ5フィート半(90cm程)グリップが片手ほどの長さからおそらくはブロードソードを模した木剣に普段使いの服の上から胸部を守るブレストプレート(胸甲)と、手袋の上からバンブレース(前腕部の鎧)のみ装着しており、盾はおろか兜や鎖帷子、他の部位鎧を着ていない。
単純にお金が無いのか?見栄えを重視して着ていないのか、それともこの装備で十分だと言う自信の表れなのか分からないが。
俺の国基準で見ると[随分と寂しい装備]と言ったのが俺の感想だ。(まぁ俺の国も手には盾を持たないからそこは一緒だけどな)
そして剣の構えだ。構えを見て分かった、アベルは何処かの道場や誰かから師事を受けたことの無い我流剣術だろうと断定する。
足は左足を前に右足は45度に開く一般的な構えになっているが、左右に動く時に剣の重みで重心が右に崩れていたり。上半身は剣を持つ右腕が前に来ているなど、ぱっと見で歪な構えだと感じた。
確かに、戦っているうちに疲れや負傷から重心や構えが崩れる事はあるが。それを悟らせない、あるいはワザと崩して誘い込んだりするのが戦術であり殺し合いだ。
まぁ良い、後は戦いが始まってからだ。それで全てが分かるし、例えどんな手段を取ってでも絶対に勝つ。ただそれだけだ。
アベル視点
リングに入ってアイツの装備を観察してみる。
アイツの手に持った剣は大体4ロッソ弱(約85cm)の木剣を持って、全身を紅く染められた分厚いハードレザーの鎧と兜。左側のリヤーブレイス(上腕部を覆う鎧)は何か盾みたいな形で独立して動く変な形になっている。
何だよアイツ、鎧とか兜やらでガチガチに固めやがって!馬鹿じゃねえの?
冒険者なら俺みたいな軽装が普通だろ?おおかた決闘だからって重装備で固めてきたんだろうな。
なんて卑怯な野郎だ⁉︎あんな奴にメイちゃんを任せるなんて出来ない‼︎サッサとアイツを倒してメイちゃんをいただいてしまおう。
「互いに誓約書を結びそれを守る事を自身の信ずる神に誓う事は出来るか?よし、では勝負・・・始めぇ‼︎」
戦いが始まり少しずつ近付いて行く、さてここからは互いにどう動くかの探り合いだ。
(さぁ、アベルはどう動く?構えはさっきから殆ど変わらない。考えられるのは踏み込み
からの突きか振り下ろし・・・それか)
そんな事を考えていると、右足を強く踏んで飛び掛かってきた。そこから繰り出されるは上段からの振り下ろし。
ある程度読んでいた動き、素早く左腕を構えて振り下ろされる剣を横に弾く。
すると如何だ?アベルの手から剣が離れ地面を転がっていく。
「「は?」」
確かに俺は相手の体勢を崩すため力を込めて剣を弾いた。たったそれだけで武器を手放したのだ。そんな状況に互いに理解が出来ず固まってしまった、が直ぐに我に帰って剣を腹部に叩き込む、するとアベルは悶絶しながら倒れ込んだ。
そのまま悶え苦しむアベルに剣を突きつける、それと同時に教官の「そこまで」と言う言葉が辺りに響いた。
そして教官は先ず、アベルの元に近づき状態を確かめる。その後、人を呼び医務室に連れて行く様に告げた。
連れて行かれている間に俺の元に来て怪我等が無いかを確かめてから高らかに「勝者、冒険者ロベルト」と言った。
こうして俺は、暗黒大陸で最初の勝利を手にする事が出来た。
決闘に勝利した俺を多くの人が称賛する。しかも相手の剣を弾き飛ばすと言う豪快な技を見せての勝利だ。
純粋に称賛する者もいれば。これを機にお近づきになろうと、寄ってたかってくる人たちもいるわ。するとそこに「ロベルトさん」と言いながらメイがやって来た。
「メイさん!如何でしたか、俺の実力は?大口叩いてただけはあったでしょ。
それに、あんな負け方をしたらアベルもこれからは必要が無い限りは声を掛けては来ないと思います。もし何かあれば遠慮なく言って下さい」
余裕でしたよ。といった顔で言う事でメイを安心させる。まぁ正直に言うとするなら、余裕と言うよりは拍子抜けと言った方が正しい。
「ロベルトさん、こっちに来て下さい」
だけどメイは俺の手を引っ張って何処かは連れて行こうとする、周りからしたらそのままお楽しみか?と思われたのか、俺たちを追いかけてくる輩はいなかった。
「ロベルトさん、余裕そうに言ってましたけど嘘ですよね?」
流石にバレてしまってるか。まぁ俺もまさか、弾きだけで剣を手放すとはおもってもいなかった。
「流石にバレてしまっていましたか。ちなみにどこで気づきましたか?」
「ロベルトさんがアベルさんの剣を弾き飛ばした後です。
普段のロベルトさんなら間を入れずに攻撃していた筈なのに僅かながら固まっていたので」
その推測は正しかった。アイツも冒険者、しかも英雄になるだなんて大口を叩いていたから、此処に来るまでにどれだけの修行をして来たのか?などと考え戦う事を楽しみにしていたのだが。
いざ蓋を開けてみれば何とも呆気ないものだった。
だが俺はアイツを貶すつもりは無い、ただ単にアイツの鍛錬不足が今回の勝敗を分けただけだ。
「確かにそうです。私もまだ鍛錬が足りていなかったです。正直に言って下さりありがとうございます」
そう言って頭を下げた。
それからと言うもの、あの戦いの反省としてか、俺は色々と考えることが多くなった。
(もし、アイツが何かしらの剣術を習っていたら?逆に俺が剣術を習っていなかったら?お互いに剣を持っていたが他の武器なら?・・・防具が、立ち位置が、技が、タイミングが?)
などと考えている。実際にメイに指摘されたとおり、弾きをした直後に僅かにだが呆けてしまい固まっていた。
もしアレがワザとで、直ぐに組み技を仕掛けられ転がされていたならば、装備の重さで俺が不利になっていた事は明白だ。
それ故に、俺は今まで以上に精進しなくてはならない。
これから先、本格的に冒険者となった後の冒険で何が起きるか分からない。その為にも仲間であるメイを守れる様に強くならなくては。
その頃、医務室で目を覚ましたアベルは此処が何処かと考えながら辺りを見渡す。
最初は見慣れない風景に戸惑ったが、分かったことは横になっている事。その近くにまだ正式に組んはいないが、パーティーメンバーの女盗賊ナロンと女魔術師のネリィの2人がボクに寄り添って看病してくれた事だけが分かった。
ボクが目を覚ますと「「アベル(さん)‼︎」」と声を掛けてくれた。
「アベルが目覚めて良かった。体は無事なんだよね?」
そう言って声を掛ける女性はナロンだ。彼女はここに来て最初に声を掛け、正式に冒険者になれたらパーティーとして活動しようと約束をした仲間だ。
彼女は元いた国で盗賊としての特技を活かして色々と仕事をしていたらしい。
だけどその事に嫌気がさし、新しい門出と思い国を出て暗黒大陸で冒険者として活躍しようと考えたらしい。
「アベルさん、大丈夫ですか?こちらの薬を飲んでください。多少は痛みが和らぐかと思います。」
そう言ってボクに液体の入ったお椀を渡すのは、ローブを羽織り長杖を肩に掛け、魔術師のオーソドックスな格好をした女性はネリィ。
彼女は魔術師学園と言う、魔術師が国や教会の迫害から身を守る為に設立した機関の出身であり、更には18歳と言う若さで1日に魔術が3回も使えると言う天才魔術師だ。
彼女もナロンと同じく此処に来てから声をかけて、パーティーを組もうと約束した。
「それにしてもアイツ‼︎自分から決闘を申し込んでおきながらあんな重装備で戦うなんて卑怯だよ‼︎」
「えぇ、そうですねナロンさん。アベルさんが立てる様になったら教官にあの人の装備について非難しましょう」
それは良い!流石だよ2人とも、ボクからもアイツの装備については色々といってやりたいからね。
どうせなら他にも人を募って非難してやろう。それが上手くいけばアイツの立場も悪くなるし、冒険者を辞めさせられるかもしれない。
そしたら行き場の無くしたメイちゃんを引き込むことが出来るかもしれないしね。
己の欲望に忠実な男の悪意がロベルト達に牙を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます