第9話【法螺吹きアベル】と下衆野郎
俺とメイさんがクランを組んでから10日の日にちが過ぎた。その間に俺たちはお互いに個人的な弓の訓練や軽い話しをしながらお互いの交流を深めていった。
そして、それまでの訓練は座学などの講義を中心として。冒険中に必要となってくる道具の使い方や、暗黒大陸に生息する魔物や亜人の生態。植生や地形等におけるさまざまな特性などを教わって来たが。
今日から新しく腹筋や走り込みなどの体力錬成や武器を使用した戦闘訓練、実際に外に出て道具の使用方法や野営などと言った実地訓練が始まる。
今日の訓練は訓練場近くの演習場で軽く身体を動かし後に配られた訓練用の近接武器を使っての、基本となる素振りや軽い実戦訓練が主な内容だ。
暗黒大陸では冒険中にどの様な状況になるか分からない為。冒険者ギルドの方針として弓士や魔術師などもある程度の近接武器による自衛などが出来なければ行けない為、弓や魔法を使う人達も同じように短剣などの武器を持たされている。
「今日の訓練を受け持つグレゴリウスだ‼︎今日は初めに、防具などは着込まずに演習場を6週ほど走ってもらう。それが終わったら休憩をとりその後に、各人が武器を持って木人形に対して打ち込みをするのが主な訓練だ‼︎
最後にもし時間が余ってたなら、2人1組で組んでもらって簡単な組み手をしてもらおうと思ってる。」
そう言うと早速装備を脱ぐ様に言われた、俺も重い鎧を脱ぐと何組かに別れて走らされることになった。
全員が6週を走り終えて周りを見渡してみると前衛職や斥候と言った体力が最も必要となってくる人達でも息切れを起こしてる人がおり平気な顔をしている人は少なかったが。
あまり体力を必要としなかったであろう魔術師や普段からこう言った事をしてこなかった人達は、走り終えた途端に息を切らし、吐瀉物を吐いたりしてそのまま倒れる人達が見受けられた。
「苦しいか?だが、苦しいのなら顔を上げて呼吸をしろよ、そうしないといつまで経っても苦しいままだからな。
とりあえずは今から休憩をとって貰う、その後に武器を持って此処に集まっておけ」
休憩となると人それぞれの休憩をとった。ある人は疲れた身体をほぐし、水を飲み。走った疲れが取れないのかずっと息を切らしている人もいる。
俺も走り終えてから少量の水を飲んだ後に走りきって張り詰めた足を揉んで痛みを和らげることにした。
すると後ろから声を掛けられた。
「ロベルトくんお疲れ様。かなり早く走ってたけど足とか大丈夫?」
声を掛けてきたのはメイだった。
まだ話し合う時に呼び捨ては出来ないが何時かは呼び捨てで呼び合える様にしたい。
「あぁメイさん、足の方は大丈夫ですよ。今は足を揉んでその後は身体を休めようと思ってるから。
それよりも如何しました?訓練中に話しかけて来るなんて、何かありましたか?」
「はい、実は・・・」
メイの話を聞くと。どうやら俺たちがクランを組んだことは既に訓練場の中では話題になっており、それ自体は他の人もクランやパーティーを組んでいるので、なんら問題はないのだが。
ここでの問題とは、俺とメイは異性でのクランを組んだのがいけなかった。と言うことだ。
先ほど言ったパーティーやクランを組んでいる人と言うのは元からして、仲が良かった者や同郷の人で組んでおり、全く知らない人間同士で組んだのはは俺とメイが初めてらしい。
此処に来て直ぐに俺と言う異性の人間とクランを組んだ事が他の人達から見たら【男なら誰でも組む女弓手】と影で言われる様になっており。
そんな戯れ事を信じ込んだ男達が、メイを引き抜こうと考え執拗に話しかけてくるらしい。
それを聞いた俺の心は穏やかではいられなかった。
確かにメイとはクランのメンバーと言う関係だけで、恋仲となりお互いに身体を重ねた関係ではない。そして、ふとした時に彼女を女性として意識している俺がいる事も分かっている。
だがなぁ‼︎俺にとってメイは互いに技を競い合う好敵手であり大切な仲間だ。確かに恋仲でないとも。
それに、俺たちの今後が如何なるか何て分からない。メイと結婚して一緒になるかもしれない。
もしくはメイが他に好きな男が出来るかもしれない。もしそうなったら俺はその時の感情を無視してメイを祝福をするつもりだ。
だけど今は違う‼︎メイは嫌がってる。
陰口の件もあるかもしれないが、クランを組んでからメイの話を聞いたからこそ俺は分かる。
メイはこれまで培って来た技術が此処でどこまで通用するのか、村から逃げる様に出ていくしかなかった弱かった自分を払拭する為に冒険者になる事を決めたと知った。
そんな話を聞いた俺は、メイの事をただの女性としてではなく。対等な仲間として互いに技の研鑽を磨いていく、良き好敵手として見る様になった。
だからこそ俺は悪党になる、今メイに降り掛かる迷惑な輩に対し、仲間として少しばかり仕返ししようと思う。
仲間を守る為なら俺はどんな手段も辞さないと言う覚悟を決めた。
俺はメイに声を掛けて来た奴らが分からない。その為、メイに教えてもらいながら誰を標的にするかを見極める事にする、教えてもらうとその内の1人が同室の【法螺吹きアベル】だと言うのが分かった。
アイツ、顔がいい事を利用して片っ端から女に声を掛けてたが。クランを組んだ事を分かってながら引き抜きの勧誘をしてやがったのか‼︎
そして【法螺吹きアベル】の事だ、アイツはプライドが有るのか無いのか分からないが何でも自分の都合のいい様に使う。コッチから一方的に手を出したなら。好き勝手周りに言いふらし俺を非難するだろう。
普段ならそんな事はしない。いくらメイが迷惑していると言ってもアイツが今の段階で行っているのはただの勧誘であり、それだけで手を出したら俺が罰せられる可能性が高い。
だが‼︎今なら許される。この訓練を利用してアベルを叩きのめし、ついでに他の奴らもまとめて牽制する。
その為にもアイツの口の軽さを利用しなければならない。
俺はメイを引き連れアベルの元に行く。俺が来たことに気づいたアベルは大きな声で。
「やぁ、ロベルトくん。君がボクの元に来るなんて如何したんだい?」
と他の奴らに聞こえる様に言葉を発する。
周りの奴らからしたら俺とメイがいる事でクランのことでアベルにいちゃもんつけるのだろうと思ってるのだろう。
勿論そうだがそれだけじゃ無い。コイツを利用して俺は俺の我儘を押し付ける。
「あぁ、メイさんが『君から何度もパーティーを組まないか?』と言われ続けて困っているって聞いてね。それを断り続けてるにも関わらず俺とクランを組んでからはよりしつこくなったともね」
実際そうで有るが少し誇張した風に言うとアベルは少しだけ顔を歪めたがそこは慣れているのかすぐに言葉を紡ぐ。
「そんな事ないよ。ボクはただメイちゃんと一緒にパーティーを組んでみるのはどうかなぁ?と思って声をかけてただけだよ?」
まぁそんな風に答えをはぐらかす事は想定してたから大丈夫だ。ここから畳み掛ける。
「そうだったのか?いや〜、それならそう言ってくれたら良いのに。
俺はメイさんと組んでからよく『もし新しくパーティーを組むのであれば、少なくともアベルさんに余裕で勝てるぐらいの強さは欲しいですね』なんて言ってたから、断られ続けてるアベルくんはもしかして弱いのかなって思ってたんだよね?」
この言葉は嘘だ、そんな事一切言ってないが、事前に了承を得てから言っている。コレなら少なくともパーティーを組むのであれば俺と同じぐらいの強さは欲しいと印象付けが出来る。
そんでもって、変にプライドの高い【法螺吹きアベル】のことだ、自分が目の前の男よりも弱いと言われたら簡単に食い付いてくれるはずだ。
「それは聞き捨てならないなぁ?それは
ボクがそこの男よりもボクが弱いって意味なのかな?」
良い具合に食いついてくれた。
しかもアベルは手に持った木剣を俺に向けた事も最高だ。周りに聞こえるよう大きな声で言う。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。俺に剣を向けている事の意味、君は分かっているのか?」
相手に武器向ける。その行為は相手に対すて決闘の申し込みであり、互いの主張や権利を得る為の方法だ。
この決闘行為は冒険者以外にも、一般人の喧嘩や、貴族同士の利権争いでも使われている当たり前の権利であり、決闘において死人が出る事もある。
その為、決闘を行う際には冒険者ギルドならギルド職員やギルド長。一般人は教会、貴族であれば寄親や王族に許可を得て正式な審判のもと決闘が行われる。
「もちろん知っているとも。知った上でボクはキサマに決闘を申し込む‼︎
ボクが勝ったならメイちゃんとのパーティーを解散してボクに着いてくることだ‼︎」
そう高らかに宣言するアベルの姿は、まるで物語の中に出てくる英雄と言っても過言ではない。
そうやって言っている内容はメイの感情を一切無視した内容で吐き気がする。
だが此処は物語の様に、自分にとって都合の良い奇跡は起こらない。奇跡とは自分で手繰り寄せ、それを実行する事だ。
そして、冒険者とは何においても実績と信頼が全ての実力主義の世界だ‼︎
「分かった‼︎俺、ロベルトはアベルからの決闘の申し込みを受けよう。
俺がアベルとの決闘に勝ったなら、必要がない限りはメイさんに近づかない事を誓え。
そしてこの決闘における立会人として、この訓練を受け持っているグレゴリウス教官を推薦したい」
この事態を最初から見ていたグレゴリウス教官は俺の宣言に対し、少し難色を示したものの受理をした。
何故なら、先程も言ったとおり冒険者とは実力が全ての世界であり。今回の様に周りに人がいる状態で決闘を宣言されたならば、どんな形であれ受理をしなければいけないからだ。
こんな状況を作り出す為にメイはもちろん相手であるアベル、そして教官までを巻き込んでいる俺は最悪の下衆野郎だと言える。
訓練が終わった後、俺とアベルは訓練場の責任者であるチャーティー教官長の部屋に招かれた。内容はもちろん決闘の件である。
「んじゃあ、今回の件をまとめると?決闘においてアベルが勝ったなら、ロベルトのクランからメイの脱退及びアベルのパーティーに加入。
逆にロベルトが勝ったなら、クランメンバーであるメイへの不必要な接触は避ける。それで良いな?」
チャーティー教官長の言葉に俺とアベルは承諾の言葉で答えた。
「まさか、入って早々に決闘騒ぎが起こるとは思ってもなかったぞ。
まぁ起きてしまった事はしょうがない。今回の決闘のルールを決める」
チャーティー教官長は呆れながらも決闘の細かい規則を誓約書に綴りながら語る。
今回の決闘において決められた内容は。
1.決闘場所は演習場に併設されたリングにて行う。
2.今回の決闘における武器は訓練用の木製の武器を使用し、その他の装備は自前の物を用意すること。
3.決着について1.相手の戦意喪失及び気絶2.リング外への逃走3.審判による戦闘不能と判断した場合
と決まり、暗器や毒物の使用などは即刻負けとして扱うとの事。
互いに誓約書に署名を行った後、武器を選んで鎧を着込み、終わったらグレゴリウス教官に連れられリングに向かう。
リングに行くと案の定、訓練でやり取りを見ていた人たちが集まっており、端ではどっちが勝つか賭けまで行われている始末だ。
リング内に入り審判のグレゴリウス教官からボディーチェックが済めば大きな声で宣言を行う。
「今ここに、冒険者ロベルトと冒険者アベルの決闘を行う。
今回の決闘において冒険者ロベルトが勝ったなら、冒険者アベルは冒険者ロベルトのクランメンバーである冒険者メイへの不必要な接触を行わない事。逆に冒険者アベルは冒険者メイのクラン脱退及び自身のパーティーに加入する事である」
グレゴリウス教官から発せられた内容に辺りはざわついている、それは勝った時の権利が明らかに不公平だからだ。
俺は最低限の権利を、アベルは最大限の権利を主張している為である。
「互いに誓約書を結びそれを守る事を自身の信ずる神に誓う事は出来るか?」
この言葉に承諾をし、互いの意志を賭けた決闘が始まった。
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